水産研究本部

試験研究は今 No.669「2008~2010年に小樽市でみられたニシンの群来について」(2010年07月16日)

はじめに

 近年石狩湾系ニシンの資源増大により、小樽市沿岸でも群来がみられるようになり、2008年以降毎年観察されています。中央水産試験場では、ニシンの産卵範囲、産卵基質、産卵密度などの把握を目的とする実態調査を行いましたので、その概要を紹介します。

1.小樽市を含む最近の群来事例

 ニシンプロジェクト研究が始まった1996年以降に北海道日本海沿岸でみられたニシンの群来の事例を表1に示しました。1999年から2004年の間にみられた5例のうち4例は留萌管内と北で多くみられていましたが、2008年以降は石狩市および小樽市でのみみられています。なお石狩市厚田区では、群来の有無にかかわらず、1998年以降毎年産卵は確認されています。
    • 表1

2.産卵床の範囲

 小樽市で3年連続して群来がみられた船浜町(図1)は小樽港に隣接し、北東に開いた湾状の地形で、群来当日はいずれも南西の風で静穏な状況になっていました。現地調査では、潜水により海藻や卵の有無の確認、サンプル採集、写真撮影などを行いました。

  年別の産卵床の範囲を図1に、その概要を表2にそれぞれ示しました。2008年はL2~L5、2009年にはL2から熊碓川河口までの離岸堤内にそれぞれ卵が確認されました。これらに対し2010年はL3からL7に至る最大約1キロメートルの範囲で産卵が行われましたが、このうちL3~L5までの約500メートルが中心で、これより東側では所々に産卵したものと考えられました。なお、一部報道では、群来時の海水の白濁は船浜町の約2キロメートルにも及ぶと紹介されましたが、本調査で確認された産卵床は浜なりに最大約1キロメートルの範囲でした。群来当日の風向や潮流の影響で、白濁した海水が広い範囲に拡散した結果、実際の産卵場所よりも広がって観察されたものと思われました。
    • 図1
      図1 2008~2010年実態調査で確認したニシン産卵床の範囲
    • 表2
 ニシン卵が確認された水深は2008年は0.5~3.0メートルでしたが、2009年は卵の分布下限は5.4メートルで、前年よりも深い場所にも産卵していました。そして2010年には、1.2~3.8メートルと再び浅い場所に限定され、産卵床の沖陸方向の最大距離も2009年の70メートルに対して、40メートルと短くなっていました。

3.産卵基質

  産卵床を構成する海藻は、年により若干の違いはみられるものの、主にフシスジモクやスギモク等のホンダワラ類、あるいはマクサを主体とした小型紅藻類でした。なお、濃密に産卵された場所では海藻群落外の岩盤や玉石といった底質の基質表面にもニシンの卵が確認されました。
    • 図2
      図2 主要な産卵基質

      フシスジモク(2009年3月4日撮影)

    • 図2
      図2 主要な産卵基質

      スギモク(2009年3月4日撮影)

    • 図3
      図3 主要な産卵基質

      マクサを主体とした小型紅藻類(2009年3月4日撮影)

4.産卵密度等

  ニシン卵が産み付けられた海藻サンプルは、全体の重量を測定した後、その一部をホルマリン海水で固定し、重量法により卵数を求めました。ニシン卵の密度(1平方メートル当たりに換算した卵数)は、場所や産卵基質となる海藻群落の種構成などによって異なっていましたが、フシスジモクやスギモクといった大型海藻がみられる場所ほど卵密度が高い傾向にありました。また、平均密度は2008年から順に184、303、81万粒/平方メートルと年によっても異なっていました。なお、サンプル卵の顕微鏡観察の結果、3年ともそれぞれ同じ発生ステージであったため、船浜では毎年1回ずつ大きな群来があったと考えられました。

おわりに

  中央水試資源管理部によると、2008~2010年の群来の頃に小樽市で漁獲されていたニシンは2004~2006年生まれが主体で、これらが近年の豊漁を支え、群来に来遊した高豊度年級群と考えられるとのことです。これらの取り残しがどれくらいあるか、また後続群はどうか気になるところですが、今後も冬から初春にかけての時期に風物詩のように群来がみられ、浜が賑わうことを期待します。中央水試では、本調査で得られた知見を生かし、産卵藻場の保全や造成に関する新たな研究も検討しております。

  なお、この産卵藻場実態調査は小樽市漁業協同組合からの依頼により、中央水試、後志北部地区水産技術普及指導所、小樽市、同漁協の共同で行われました。

(中央水産試験場資源増殖部 高橋和寛)

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