水産研究本部

試験研究は今 No.678「今年(平成22年)のサンマ漁について ~ 今年のサンマ漁業の不振について ~」(2010年12月9日 )

試験研究は今 No.678「今年(平成22年)のサンマ漁について — 今年のサンマ漁業の不振について —」(2010年12月9日 )

1.はじめに

  道東でのサンマ漁業は、まず 7月上旬の流し網漁業に始まり、同下旬から小型棒受け網(知事許可)、8月に入るとサンマ棒受け網船(大臣承認)が出漁し、盛漁期を迎えるはずでした。

  しかし、今年は例年とはかなり様子が異なり、7月上旬のスタート時点から漁模様は思わしくない状態が続き、流し網漁業の漁獲量(5,310トン)は昨年(15,407トン)の35パーセントにとどまり(図1)、棒受け網漁業(大臣承認)による漁獲量は、10月31日までの集計(暫定値)で、北海道で76,043 トン(昨年同期:111,028 トン)、全国では133,331トン(同:204,702 トン)と、昨年の65パーセント前後にまで落ち込みました(図2)。
    • 図1
    • 図2

2.サンマ漁業不振の原因について-釧路水試として-

図3
 流し網漁業や小型棒受け網漁業が操業する中で、操業当初から漁獲の不振が続いていました。このような中で、特にマスコミに取り上げられることも多くなり、釧路水試としては不振の原因について発表しました。

 例年と異なる現象としては、海表面の水温が高くなったことが上げられます。
 その原因として考えられるのが、6月26日には釧路市の中心街で最高気温が30度を超える記録的な真夏日があったり、8月の平均気温が例年よりも 2.5度も高かったことなどから、大気の温度が高くなり海水温も上昇したものと考えられます。また、7月下旬から8月上旬に実施した定期海洋観測の結果からは表面水温が16度であっても水深10メートルでは8度前後というような、海表面の水温だけ上昇する現象も見られ、これは台風などによる時化が少なく、海が混合されなかったためと考えられます(図 3)。

 この海表面だけ高水温で数メートル深では低水温の状態は、主に15度前後に分布するサンマにとっては、生息環境が狭く、群れが形成されにくい環境にあったと考えられます。漁業者からも、今年はサンマの群れが薄くひとところにまとまった群れが無いとの情報を得ていました。
    • 図4
  また、東北区水産研究所八戸支所(以下東北水研)で6〜7月に実施している表層トロールによる漁期前調査では、漁期前半に道東沖へ来遊するであろう東経 165度以西のサンマの分布量(図中の枠内)が非常に少ない結果となっていました(図 4)。

  これらのことから、釧路水試としては、高水温とサンマの分布に適正な水温帯(15度前後)が狭いことによりサンマの漁場が形成されにくい環境にあったことと、来遊してくるサンマの資源量が非常に少なかったことが原因であろうと考えました。

3.サンマシンポジウムでの研究討論

  今年の11月12日に釧路市において、「道東サンマの不漁をどう見るか」というシンポジウムが、東京水産振興会や漁業情報サービスセンターなどにより開催されました。

  このシンポジウムでは、東北水研の中神主任研究員と漁業情報サービスセンター道東支所の小林所長により、サンマ不漁の要因に関して研究討論されました。

  中神主任研究員によると、2003年以降の8月下旬にサンマ漁場となった海域の表面水温帯(11.7〜17.5度)の面積割合は 2006、2007 年と同程度であり、8月下旬の 1網当たりの漁獲量は 2006、2007 年とも高い値を示すことから、サンマ漁場における漁獲水温帯が狭かったことが不漁の要因とは考えられないとされました。また、前年の中小型魚の獲りすぎが影響したのかという関係については、中小型魚が多く漁獲された翌年に大型魚が少ないという関係は見られないとし、今年の不漁の原因は、中層トロールによる漁期前調査の結果や漁況が9月下旬以降上向いたことから、東経170 度以西海域の分布密度が低かったことを1つの要因として考えられると報告されました。

  小林所長は、表面水温が19度前後でも漁獲があったことから、高水温が影響したのではないとし、1973年以降の漁獲データからみると、前年に中小型魚を多く漁獲すると翌年は大型魚が減り漁獲量が少なくなる関係が何例か見られたことから、今年の不漁の原因は昨年の中小型魚の獲りすぎが大きく影響したのであろうと報告されました。

4.おわりに

  今年の不漁の原因についてはいくつかの要因が示されていますが、未だ説明不足な点が多いように感じます。今後は、サンマ資源がどの様に変動するのか、漁場形成に大きく影響する海況の変化とはどのようなものなのか、今年得られた資料の分析を進めるとともに、来年度も北辰丸での調査結果等にこの分析結果を反映させ、精度の高い漁況予報を発信していきたいと考えています。

(釧路水産試験場 調査研究部 三橋正基)

印刷版