水産研究本部

試験研究は今 No.202「[Q&A]今年の夏は例年にない猛暑でしたが、水温のほうはどうでしたか~」(1994年10月7日)

試験研究は今 No.202「[Q&A]今年の夏は例年にない猛暑でしたが、水温のほうはどうでしたか?」(1994年10月7日)

Q&A 今年の夏は例年にない猛暑でしたが、水温のほうはどうでしたか?

図1
  まもなく戦後50年を迎えようとしています。今年は冷夏という当初の予想から大きくはずれ、戦後一番の猛暑ということで、観測史上最も高い気温を記録した地点も多かったようです。この猛暑にも関連したとおもわれますが、赤潮の発生(渡島管内)とかクラゲの大量発生による海水浴での被害や網走湖ではアオコの大量発生があったりして話題となりました。

  そこでまず水温の状況ですが、中央水試の海洋部で観測、とりまとめられている沿岸水温資料からみてみましょう。図1に示した余市沿岸水温の日々の推移をみますと、冷夏であった昨年と比べても明らかに今年は高く推移したことがわかります。
図2
  それでは平年や他の年と比較してどうだったでしょうか。図2に平年値と過去の特徴年の旬平均値を示しました。今年は平年より最高2.3度高い時(9月上旬)もあったように、本年の高水温は明らかな特徴です。また、年間を通じて高水温傾向が顕著だった1990年よりも高めに経過したことも事実です。

  しかし、実は戦後数年間には高水温の年があり、例えば、1950年のように、旬平均値が26度を越えるといった暑い年があった(参考:北水試月報43、1-3、1986)ので、気温とは違って戦後最も高かったとはいえません。なお、この1950年ごろからいわゆる磯焼け現象が目立ち始めたというのも興味深い点です。

  さらに、今年の他の海域の代表的な沿岸水温の推移をみても、寿都や紋別では旬平均値で26度台という高水温(8月中旬)を示していたのをはじめ太平洋沿岸の浦河でも異常とも思えるような高水温状態になっていました(北海道栽培漁業振興公社資料)。このことから今年の高水温は全道的な傾向であったことがうかがえます。また、特に余市では9月に入ってからも高めの傾向が続いているのが特徴的です。

  それでは沖合域の状況はどうだったでしょうか。中央水試の海洋部で2ヵ月毎の定期海洋観測をまとめた「海況速報」平成6年度第3号によれば、8月の日本海域の表面水温はここ数年の平均値より高くなっていたことは確かです。しかし、50メートル層以深では近年の平均値より低くなっていました。このことは、今夏の高水温が対馬暖流の増強というよりは、今夏の特異な猛暑という気象の影響を強く受けた結果を反映したものと思われます。

  一般に生物は、冬季の低水温期とともに夏季の高水温期も代謝活動が弱まって、きっと体力も落ちることでしょう。そこで心配されるのは、浅海域で大きな移動が出来ないウニなどの生物です。実際今年は渡島管内かたは北は利尻海域でも弱まって繁死したウニが報告されています。

  また、富山県沿岸ではエゾバフンウニより高水温に強く深い場所に生息するキタムラサキウニが30度近いという驚くべき高水温の影響から死んでいるのがはじめて確認されたといいます。(富山県水試藤田氏による)。
図3
  西浜(1993北水試だより21)によると、日本海の天然域でエゾバフンウニの繁死がみられたのは1972、1973,1978、1984、1988、1990年でした。しかもこれらの年は1988年を別として数年おきにみられる高水温年に起きていることが特徴的です。1972年以前も調べたところ、1967年の高水温年も当時の事業報告書にエゾバフンウニの繁死報告が載っていました。しかし、それ以前は残念ながらわかりません。水温が23度以上の高水温になると必ず死ぬということではありませんが、そのような高水温年にはその可能性が明らかに高いことを示しています(図3)。

  今年の夏はウニなどにとってはつらい夏でした。水温などのモニタリング調査・解析によって、暑い夏の予測や繁死などの対策の手助けに少しでも役立つならば、その大切さがますます活かされてくるでしょう。なお、今年はウニなどの斃死が心配されたため、当水試では“水温警戒情報”として後志管内の漁協などにお知らせしました。(中央水試資源増殖部 大槻知寛)