水産研究本部

試験研究は今 No.203「[浜ウオッチング]アワビの陸上養殖に取り組む」(1994年10月21日)

浜の声 -浜ウオッチング アワビの陸上養殖に取り組む-

  渡島半島の東端にある椴法華村でアワビの陸上養殖に取り組んでいる方がいます。

  今回の浜ウオッチングは、椴法華村でコンブやホタテの養殖、エビやホッケ漁など営んでいる傍ら、個人でアワビの陸上養殖に取り組んでいる越崎 盛さんの養殖施設におじゃまして話を伺いました。

  越崎さんは以前、椴法華漁協の組合長をしていましたが、現在は引退されて息子さん二人と漁をしています。
    • 越崎 盛さん
この施設を作った経緯について
20年程前にアワビの海中養殖に挑戦しましたが、2年目の冬に全滅させてしまった経験があります。平成3年に村役場を通じてアワビの種苗が手に入った事から再び手掛けることになりましたが、前の失敗の経験から冬期間は陸上で養殖することとしました。このため現在の施設を作った訳ですが、実際作業をしてみると、思ったよりも移動したときにアワビの弱り方が著しく、手間もかかってしまうことから、平成5年に完全に陸上養殖に切替えました。

施設の概要について
約90平方メートルの建物の中に、5トン水槽4基と10メートル水槽1基を設置しています。それから海水を循環して使用するためのシステムー式と室内の温度調節のためのストーブとクーラーを設置しています。

成長はどうですか
始めて間もないころは、月に2ミリメートル程度でしたが、最近では平均2.5ミリメートルぐらい成長しているようです。成長の良い物は3ミリメートルも大きくなります。

飼育数
現在、40~60ミリメートルサイズを約.15,000程飼育しています。種苗は平成5年8月に大成町のアワビ種苗供給センターから譲っていただいたものを主体として、一部震災前の奥尻産のものも入っています。

餌について
私は、コンブの養殖も行っていますので、間引コンブや雑海藻のチガイソなども餌として使っています。また餌料用のコンブも一部養殖していますので全部自賄いで用意できます。

水温管理について
海水を循環させていますので、水を直接調温するのではなく、室内温度で水温を調節しています。冬期間でも水温は14~15度を保つようにしていますし、夏の間は水温の心配はなかったのですが、今年の夏は異常に高い気温の日が続いたこともあり、水温もかなり危険な温度まで上昇したことからクーラーを設置しました。

経費はどのくらい
ストーブは廃油を使用していますので燃油代は必要ありませんから、ほとんどが循環システムやポンプ、クーラーなどの電気代で占めています。クーラーを使う夏には若干経費がかさみますが、平均すると月に4万円程度で、年間50万円を越える事はないと思います。

苦労した事は
なんといっても陸上養殖は初めての経験でしたので、色々なところへ視察や話を伺いに行きました。個人経営の養殖ですので、できるだけ運営経費のかからない施設の検討や飼育方法、密度と餌など多くの問題がありましたが、少い経費でいかに多くのアワビを養殖できるかというのが一番の課題でした。

出荷について
来年から出荷したいと思っています。最終的には2年間で1回転するようなサイクルで出荷していければと考えています。

将来について
始めた当初は、周囲の人達から「やめた方が良い」といわれましたが、私の目指しているものは、(1)高齢者でもできる仕事(2)若い漁業後継者が希望を持てる浜づくり(3)村の活性化の一役になれればと思い始めた事であり、今のところ副業にもならない状態ですが、私の考えが村の人達に広がってくれればと思っています。(函館水試企画総務部)