水産研究本部

試験研究は今 No.205「大型ワカサギはどこから来た~」(1994年11月11日)

試験研究は今 No.205「大型ワカサギはどこから来た?」(1994年11月11日)

大型ワカサギはどこから来た?

網走湖産ワカサギに現れた異常現象

網走湖では今、秋のワカサギ漁の真っ盛りです。網走市内にある網走湖のワカサギは、年間200~400トンの漁獲量と1億円~2億円の水揚げ金額を誇っています。網走水試では1981年から、地元の西網走漁業協同組合、網走市と協力して、網走湖のワカサギを調査してきました。
昨年、1993年の夏は全国的に異常冷夏でした。網走湖では、その年に生まれたワカサギが生き残りも成長も非常に悪く、当歳魚(小型魚)の漁獲量も例年の3割程度しかなく、壊滅的なダメージを受けました。ところが、昨年(1992年)生まれの大型魚が異常た多く、1993年度の漁獲量は、最終的には平年をやや下回るだけで済みました(図)。例年であれば漁獲量に占める大型魚の割合はせいぜい1割~2割程度ですから、いかに大型魚が多かったがが分かるかと思います。
    • マサバ
網走湖産ワカサギの生活史

ワカサギは一般には年魚といわれていますが、網走湖では2年目、3年目まで生き延びるものがいます。
網走湖産ワカサギの多くは満1年で成熟し、網走湖に流入する川に春遡上して産卵します。産卵後数週間でふ化した仔魚は網走湖で成長し、一部は7月から8月に海へ下り、その多くはその年の11月から12月には再び湖に戻ってきます。しかし、中には翌春の産卵期まで海にいるものや、その後もさらに海にい続けるもの、2年目になってから海に下るものなど、様々なパターンがあるようです。

網走湖のワカサギ漁業

網走湖での主要なワカサギ漁業は、秋の船引き網漁業と結氷期の氷下引き網漁業です。このうち秋漁では、当歳魚から漁獲の対象となり、海に下らず湖に残ったワカサギのほとんどを漁期中に漁獲してしまいます。氷下漁では、結氷前に海から遡上してきた群れを新たな漁獲対象とし、ここでも遡上してきたワカサギのほとんどを漁獲してしまいます。ただし、これまで再生産はとり残された資源で十分まかなわれてきました。
このように1年目での漁獲率が非常に高いため、2年目の氷下漁まで生き残るワカサギはごくわずかなのです。

大型ワカサギはどこから来た?

それではなぜ、1993年度だけ大型魚がこれほどまでに多かったのでしょうか。
1992年生まれであるこれらの大型ワカサギが当歳魚であったときに、湖でのとり残しがたくさんあったのでしょうか。残念ながら、湖でのこれらのとり残しは、逆にかなり少なかったことが分かっています。とすれば、そのとき彼らは海にいたことになります。当歳魚のときには海にいて漁獲を免れ、2年目になってから湖に遡上してきたものと考えられます。

なぜ大量に海へ下ったのか?

1992年生まれのワカサギは、なぜそれほどたくさん海にいたのでしょうか。
1993年夏の異常気象が、1993年生まれのワカサギに深刻なダメージを与えたことは冒頭で述べました。私は網走湖のワカサギが、この年の異常冷夏を前の年にすでに予知していて、あらかじめ海に下って、漁獲と冷夏の影響を免れ、資源を温存していたのではないかと、半ば本気で考えました。しかし、答は別の意外なところにありました。

1992年秋、網走を襲った台風17号

1992年をいろいろ振り返ってみましたら、1992年9月11日から12日にかけて、北海道東方を通過した台風17号のことが思い起こされました。この台風は網走に豪雨をもたらし、網走湖の水位は2メートルも上昇しました。この出水によって、多くのワカサギが海に押し流されたと推定されたのです。実際、台風17号が去った直後に解禁された秋漁は、直前までの豊漁予想に反して振るいませんでした。ところが、11月下旬に海からの遡上が始まると漁況は好転し、それに続く氷下漁は、例年に比べて6割以上も多い漁獲量を記録したのです。大量のワカサギがこの台風によって海に押し流されていたのは間違いありません。これらのうち、さらに海にい続けたものも多く、それが2年目の1993年になってから大量に湖に遡上してきたのです。

自然の不思議

このように、1993年の異常なまでの大型ワカサギの漁獲は、前年の台風によるものと推定されました。漁獲直前のワカサギが台風によって大量に海に押し流されてしまったことは、網走湖のワカサギや漁業にとってマイナスであったと考えがちですが、それに続く翌年の異常冷夏がワカサギ資源に与えた大きなダメージを、結局この台風が逆に救ってくれたのでした。これが単なる偶然なのか、私には分かりません。ただ今回、1993年度の大型ワカサギの大量漁獲の原因を推理してみて、あらためて自然の不思議を思い知らされたのでした。(網走水試資源管理部 鳥澤 雅)