水産研究本部

試験研究は今 No.206「最近の海洋観測から-その調査研究雑感-」(1994年11月18日)

最近の海洋観測から~その調査研究雑感~

  私は今回10月の定期海洋観測調査で、ピンチヒッターとして久しぶりに乗船する機会を得ました。北海道周辺海域の定期海洋観測は昭和63年から全道的に統一され、同一定点において実施されています。この業務は中央水産試験場海洋部の「北海道周辺海域漁場環境調査研究」という基盤的業務として位置づけられており、各水試の試験調査船と資源研究部門の協力のもと、まさに北海道水試としての組織的な調査ともいえるものです。

  私は、東京都水試の鳥島までの長い沖合定線観測や、道水試のいろいろな海洋観測に従事してきました。その中には、廃船直前の海洋観測航海にも乗船してきました(東京都水試“あずま”、網走水試“おやしお丸”、稚内水試“栄光丸”)。大時化のうねりの中で小さな調査船はもちろん、人間も木の葉のように揺られ、観測自体の困難さが今さらのように思い出されます。

  さて、今回の調査線を図に示しました。出港した日は良い凪でしたが、「秋の天候は気まま」のとおり、2日目から南西の風が最高20メートル/秒も吹く大時化になりました。パラシュートアンカーで動揺を支えながら観測再開を期しましたが、時化は収まらず、予定していた調査線を残しての帰港となりました。図で見ると小さな海ですが、一番近い観測点間でも10海里(約18.5キロメートル)離れていて、約1時間もかかるという広大さです。
    • 図
CTD観測の写真
  こんな時化の時に限っていやなトラブルが発生するものです。今回も「CTD」という水温、塩分を鉛直的に連続測定する機器(写真参照)に故障が発生しました。測定センサーを降ろしながら、船上でその電CTD観測の気信号により測定するのですが、精密機器も動揺、振動や海水の影響を受けるのです。故障の原因は断線ということで大時化の中、乗組員の努力によって修理され、観測が再開できました。こういう困難さのもとに観測が続けられていることを改めて実感しましたが、行政部門の方はむろん、幅広い分野の試験研究が行われている水試の中でさえも実感として意外と理解してもらえない部分があるのかなどと思いました。たかが観測とは言うものの、過去から組織の調査として、営々と続けられている現場の乗組員、調査員の努力に敬意を払いたいと思います。

  増殖部門の現場では、一般に浅い海という環境から、研究者自身が潜水し調査しますが、海洋・資源部門のように沖合を対象とする場合そうはいかず、整備された船とともにその船を固定させる必要があります。それにしても“揺れる”こと自体が調査を一層困難にしています。

  酒に程よく酔うのは気持ちの良いものですが、船酔いほど苦痛なものはありません。一昼夜を問わず行われる海洋観測では、たとえ2人で交代しながらでもよく眠られず、船酔いでもうろうとした頭の中で行っていくのは、実際経験しないとなかなか分からないことと思われます。

  前置きが長くなりましたが、今回の調査範囲内では8月の積丹半島沖の暖水塊は見られませんでした。この暖水塊の動向は今後、冬季に向かって最盛期を迎えるスケトウダラの漁場形成などに大きな影響を与えます。また、沖合の暖流が沿岸水温にも影響を及ぼすことがありますので、今まで浅海域を対象としてきた方にもこうした海況の動向に関心を持っていただきたいと思います。

  さて、観測の困難さのみを強調してきた様ですが、海洋観測も苦しいことばかりではありません。海は時化ばかりではなく、凪の夏の夜など、波頭に“夜光虫”が光るのはロマンチックでもあります。

  また、しばしの休息時間に海水風呂で温まった後、缶ビールを飲むおいしさや、夜空の星を見ながら食べるカップメンのおいしさに改めて気付くのも新鮮な感動です。そして何より海を舞台に生きる職員とのふれ合いもうれしいものです。

  こんなすばらしい経験に触れることができますし、できれば他部門の方にも、特に若い時に一度は体験をしてほしいものと思います。そのことにより、調査の大切さも認識できるものと確信します。

  なお、今回の観測で、CTDなどの機器操作マニュアルが、以前私が作成し使用していたものがまだ活かされていたのは、ちょっと驚いたような、しかしうれしいような複雑な思いでした。
*なお、「試験研究は今」No.202(北海道水産部)に掲載した文章中、「寿都や紋別では旬平均値で26℃台という高水温…云々」の記述がありましたが、これは提供を受けた速報データに誤りがありました。お詫びして訂正します。(中央水試資源増殖部 大槻知寛)