水産研究本部

試験研究は今 No.207「マコガレイ人工種苗生産初の試み」(1994年12月2日)

マコガレイ人工種苗生産初の試み

  マコガレイは九州から北海道南部にかけて生息し、古くから全国的に重要な漁獲対象種になっています。また、大分県で漁獲されるマコガレイは城下(しろした)カレイと呼ばれ、ヒラメをしのぐ高級魚として取り扱われています。道内でも津軽海峡沿岸では古くからマガレイとして漁獲されていましたが、最近ではマコガレイとして取り扱われています。道南の木古内湾では現在、年間約200~300トン、金額にして約3億円の水揚げがあります。

  栽培漁業総合センターでは今年、道の機関として初めてマコガレイの人工種苗生産に取り組みましたので、その概要について紹介いたします。

  親魚は知内町から4月に搬入し、オキアミとイソメを給餌して飼育しました。5月17日に採卵を行い、約45万粒の受精卵が得られました。ヒラメやマガレイの受精卵は分離浮遊卵といって1個ずつバラバラの状態で水面に浮遊していますが、マコガレイは粘性沈着卵といって卵どうしがくっつき合って底に沈んでしまいます。したがってふ化までは何かに付着させて飼育しなければなりません。今年は、強力ニップ網(目合い0.5ミリメートル)に受精卵を付着させ、1ミクロンのカートリッジフィルターで濾(ろ)過した自然海水(平均水温11.5度)で受精卵を飼育しました。ふ化は受精後7日目から9日目まで続き、全長約3.7ミリメートルのふ化仔魚約29万尾を得ることができました。

  ふ化後の仔魚は1t水槽と0.5トン水槽に各10万尾収容し、濾過した自然海水で飼育しました。餌料は、マリンアルファーとナンノクロロプシスとビタミンで栄養強化したシオミズツボワムシを39日齢まで与えました。23日齢からは乳化オイルとビタミンで栄養強化したアルテミアノープリウスも給餌しました。28日齢になると変態を始め、着底間近な個体も現れました。また、40日齢から着底個体がみられるようになったので配合飼料の給餌を始めました。38日齢から58日齢にかけて毎日繁(へい)死が続き、斃死魚が1万尾を超える日もありました。繁死魚のほとんどは変態途中であり、この時期の飼育方法に問題点が残されました。

  図にふ化後の成長を示しました。10日齢で全長(以下全長省略)5.2ミリメートル、28日齢で8.4ミリメートル、50日齢で15.7ミリメートル、81日齢で33.8ミリメートル、104日齢で40.2ミリメートル、163日齢で63.3ミリメートルでした。飼育水温の差もありますが、50日齢で28.5ミリメートルになるヒラメに比べると成長は遅いといえます。写真は、変態前のマコガレイ仔魚です。この時期の特徴は、脊椎部分の背側の3個の色素叢(そう)(色素胞の集まり)が等間隔に並んでいますが、腹側の3個の色素叢にはそのような規則性がないということです。マガレイの場合は、色素叢が等間隔に背腹対称に位置しています。
    • 図
    • 変態前のマコガレイ仔魚の写真
  60日齢を過ぎたころには繁死も少なくなり、ほとんどの個体が変態を終えて着底生活に移りました。着底した後は底に沈んだ配合飼料を活発に摂餌するようになりました。ヒラメは水中に浮遊する配合飼料を摂餌しますが、マコガレイの場合は底に沈まなければ摂餌しません。そのため網生簀で飼育するには底の部分にシートを張るなど一工夫必要と思われます。この60日齢ころから、日に日に尾鰭の短い個体が目につくようになりました。原因はしっぼかじりです。このかじられた個体をそのまま飼育していると滑走細菌に侵され、大量斃死に至る可能性もあります。そこで、尾鰭のほとんどない個体は取り除き、防止策として密度を低くしたり、給餌量を増やしたり、暗くしたり、選別をこまめに行ったりしましたが、どれもそれほどの効果はなく、飼育期間中収まることはありませんでした。

  カレイ類の人工種苗生産で必ず問題になるのが体色異常です。今年生産したマコガレイは黒化の個体は全くみられず、白化の個体だけがみられました。部分的な白化も含めた白化率は約45パーセントでした。

  栽培センターでは11月7日まで4千尾飼育し、その後は知内町で陸上中間育成試験を行い知見の蓄積を行っています。

  このように、北海道でのマコガレイ人工種苗生産試験は始まったばかりで問題が数多くあります。私たちは一つ一つこの問題点を解決していきたいと思っています。