水産研究本部

試験研究は今 No.208「カテキンおよびヨード剤の飼育用水連続添加によるIHNの感染阻止」(1994年12月9日)

カテキンおよびヨード剤の飼育水連続添加によるIHNの感染阻止

  伝染性造血器壊死症(IHN)はサケ科魚類のウイルス感染症です。IHNの病原ウイルス(IHNウイルス)は病魚および健康保菌魚(キャリアー)から水中に放出され、水を介して感染したり(水平伝播)、あるいは発病魚や成熟期に達したキャリアーの体腔液や精液中に大量に排出され、卵表面に付着することにより孵化仔稚魚に感染する(垂直伝播)ことにより、被害が大きくなります。この二つの感染経路のうち、垂直伝播に対してはヨード剤(水産用イソジン)による受精直後卵あるいは発眼卵の消毒(50ppm、15分)が有効であり、現在多くのサケ・マス養魚場で実施されています。水を介した感染、すなわち水平伝播を阻止するために、無病種苗の導入、IHNウイルスに汚染されていない用水の利用、病気に罹りやすい幼稚魚期の隔離飼育、死亡魚の処分や池・施設の消毒などの防疫対策が行われています。

  IHNは毎年道内の多くの養魚場で発生がみられ、養魚場および天然遡上サケ・マス親魚の体腔液からもウイルスが検出されています。このことから道内の養魚場に感染が拡がっていると考えられます。さらに、ニジマスおよびサクラマスでは昭和62年頃から発病魚サイズの大型化がみられ、親魚など大型魚での発病もみられるようになってきました。このようなことから従来の防疫対策に加えて、新しいIHN感染阻止法の開発が必要です。北海道立水産孵化場病理環境部では、平成4年度から3年計画でウイルス感染抑制技術開発試験を行ってきました。これはIHNウイルスの新しい感染阻止方法の開発を目的とした試験研究です。現在までに、飼育用水に連続的に加えることにより有効な物資が2つ見いだされています。以下にこれまでに明らかになった試験結果について概要を述べます。

1:カテキンの飼育水連続添加の効果

  カテキン(茶の成分の一つ)を飼育水に連続的に加えることにより、IHNの感染を防ぐことができるか否かを調べました。試験魚としてサクラマス(平均体重2.0グラム)を用い、60リットルの水槽6個にそれぞれ100尾を収容しました。定量ポンプにより、水槽2個に注水1ミリリットル当り1pfu(ウイルスの感染価の単位)になるようにIHN、ウイルスを連続的に加え対照区としました。一方他の2つの水槽には、カテキンを定量ポンプを用いて1ppm(ミリグラム/L)となるように注水に連続的に加え、同時にIHNウイルスも加えて試験区としました。また、残りの2つの水槽にはカテキンのみを加えました。30日間観察し、累積死亡率(最初の飼育尾数に対する死亡魚の割合)を求めました。結果を図1に示します。IHNウイルスのみを連続添加した区での累積死亡率は61パーセントおよび44パーセントでした。これに対してIHNウイルスとカテキンを同時に加えた区では、25パーセントおよび7パーセントでした。なお、カテキンのみを加えた区では、3パーセントおよびOパーセントでした。このことからカテキンが飼育水に常時1ppm含まれているとIHNの感染防止に有効であることが明らかとなりました。

2:ヨード剤の飼育水連続添加の効果

  試験魚としてサクラマス(1.6グラム)を用い、60リットルの水槽6個にそれぞれ100尾を収容しました。水槽2個には定量ポンプによりIHNウイルスを注水1ミリリットル当り1pfuになるように連続的に加え、対照区としました。他の2つの水槽には定量ポンプを用いてヨード剤(水産用イソジン)を注水1ミリリットル当り有効ヨード0.1ppmになるように加え、同時にIHNウイルスを注水1ミリリットル当り1pfuになるように連続的に加えて試験区としました。残りの2つの水槽にはヨード剤のみを加え、対照区としました。30日間観察し累積死亡率を求めました。結果を図2に示します。IHNウイルスのみを加えた区での累積死亡率は81パーセントおよび77パーセント、IHNウイルスとヨード剤を同時に加えた区では19パーセントおよび5パーセントでした。なお、ヨード剤のみを加えた区では2パーセントおよび1.3パーセントでした。このようにヨード剤の飼育水連続添加はIHNウイルスの感染阻止に非常に有効でした。

  現在、急病防疫科では実用化に向けて両物資の同時使用による相乗効果などさらに試験研究を行っています。(水産孵化場病理環境部 鈴木邦夫)

  お断り:9月9日発行の「試験研究は今-魚の研究、to be contimed」の『オホーツク海北部に来遊した秋サケの回遊経路からみた資源構造』の結果については、いずれ掲載の予定ですが、秋さけ資源利用配分適正化事業報告書をみていただければ、より詳しい結果が載っております
    • 図1 カテキンのIHN発病抑制効果
    • 図2 ヨード剤のIHN発病抑制効果