水産研究本部

試験研究は今 No.212「能取湖におけるアサリの成長試験」(1995年2月3日)

能取湖におけるアサリの成長試験

  能取湖は、網走や近隣市町村はじめ、遠くは旭川方面から年間推定約10万人が潮干狩りに訪れています。しかし、近年、資源の減少が著しく、資源保護を目的に平成5年9月にアサリ漁業権が設定されました。その結果、一部の砂浜域が開放区に、他は禁漁区となっています。

  地元では禁漁区の資源回復を待って漁業者あるいは遊漁者への開放を計画しています。そこで平成6年から水産試験場では、東京農大、網走東部指導所、西網走漁協、網走市役所と協力して、禁漁区の干潟域でアサリ分布調査、成長試験、環境調査等を開始しました。今回は、平成6年に実施した調査の中から成長試験の結果を紹介します。

  5月に、汀線からの距離が異なる3ヵ所(陸から沖にSt.A、St.B、St.C)に蓋付きのプラスチック製の網籠を7割程度埋設し、事前に採集し蓄養しておいた平均殻長28ミリメートル、平均重量4グラムのアサリ(2~3年貝と推定された)を1籠に40個体収容し試験を開始しました。これらの籠を毎月回収して殻長・重量等を測定しました。

  他に、環境条件として、地盤高、粒度組成、全硫化物、有機炭素、窒素量、水温等を調べました。

  殻長の変化を図に示しましたが、最も沖側のSt.Cでは、5月以降11月までほぼ直線的に成長し、試験開始5ヵ月後の10月には一般的な商品サイズであ名殻長40ミリメートルをすでに超え、12月には44ミリメートルに達しました。一方、陸側のSt.AではSt.Cの半分程度しか成長せず、9月まで成長が非常に遅く、9月から10月に著しい成長が見られたものの、10月以降は成長しませんでした。その結果、12月での殻長は36ミリメートルでした。St.BではSt.AとSt.Cの中間的な成長を示し、11月での殻長は41ミリメートルでした。沖側の点ほど成長が良かったことになります。
    • 図
   各地点の環境条件を表に示しました。地盤高は、St.Aが47センチメートル、St.Bが11センチメートル、St.Cが26センチメートルであり、St.Bは地盤高が最も低いものの、タイドプール状態であったことがわかりました。また、底質は、各地点とも細粒砂であり、中央粒径も約0.2ミリメートルであり、アサリの生息地としては好適な条件でした。ただし、シルト含有率、全硫化物、有機炭素、窒素量は、沖ほど低い値でした。特に陸側のSt.Aの全硫化物量は0.48ミリグラムであり、水産環境基準(0.2ミリグラム)を超えていました。また、毎月調査時に水温を観測しましたが、特にSt.Aでは6月に30度、8月に40度越えていたのが、特徴的でした。最も陸側のSt.Aでは、地盤高が高く、干出時間が長く、干出していない時間帯でも夏期には高水温による影響があって、摂餌可能時間が短くなった結果、成長が悪くなったと思われます。St.Bでは、地盤高は最も低く、干出時間が最も短いのですが、タイドプール状態であることから、海水交換量が影響し、St.Cよりも成長が劣ったと思われました。また、夏期の成長速度がSt.Cよりも劣っていることから、調査時は高水温は観測されませんでしたが、かなりの高水温になっていたことも想像されます。St.Cは、地盤高も低く、海水交換も良いこと、夏期の高水温の影響もないことから、成長が良かったと思われます。

  以上の結果から、平坦な干潟であれば地盤高による干出時間がアサリの成長を左右しますが、タイドプール状態の場合には、単に地盤高だけではなく海水交換、高水温等が成長に影響を与えますので、注意が必要です。

  能取湖では遊漁者による採集によってアサリ資源がかなり減少していますが、今回の試験結果から、タイドプール状の地形でなければ、地盤高が20センチメートル前後の地点では充分に成長が望める環境であること、しかも成長がかなり速いことがわかりました。したがって、後続発生群があれば、禁漁措置によって3~4年で資源が回復すると思われます。また稚貝の発生が特定の場所に限られている場合でも、今回、籠試験で繁死した個体は非常に少なかったことから、移殖対策が可能と思われました。

  今後は、残された課題として、禁漁による資源量の回復状況、および稚貝の発生状況等を中心に調査していく予定です。
表 地盤高と底質環境(平成6年8月調査)
調査地点 地盤高(cm) 底質 シルト含有率(%) 中央粒径(mm) 全硫化物量 有機炭素量 有機窒素量
St.A 47 細粒砂  2.52  0.20  0.483  1.56  0.28
St.B 11 細粒砂  1.47  0.23  0.088  0.94  0.18
St.C 26 細粒砂  1.23  0.22  0.034  0.48  0.12

地盤高は、網走検潮所潮位観測基準面DLを0とした。
シルトは粒径0.063ミリメートル以下を示す。
全硫化物:mgH2S/g・乾泥、有機炭素:mgC/g・乾泥、有機窒素:mgN/g・乾泥(網走水試資源増殖部 蔵田 護)