水産研究本部

試験研究は今 No.221「スケソ博士のタラでダラダラ言わせて(パート2)」(1995年4月21日)

スケソ博士のタラでダラダラ言わせて(パート2) -大水深を利用したマダラ人工礁による資源保護・増大への取り組み-

はじめに

  前回(試験研究は今、No.215)は、マダラの資源と生態の概略と、資源増大のためのいろいろな方法についてご紹介しました。今回は平成4~6年度に行われた、人工礁を使った「大水深域におけるマダラ保護・増殖場造成技術開発調査」を中心にお語します。

マダラ保護・増殖場造成の理論

  マダラの生態学的知見を整理して、生活史の概念図を描くと、図のように表せます。ここで、マダラの産卵場へ戻る性質(回帰性)と海底の根(岩礁など)に付く性質(定着性)に注目すると、人工的な構造物を海底に設置することで、回遊しているマダラを構造物の周辺に取り込んで保護し、産卵親魚の数を増やして子供をたくさん産ませて、マダラの資源を増大させることができるのではないでしょうか。この作業仮説は、一見荒唐無稽な考えのように思われるかもしれません。しかし、道南の椴法華沖のように、かつて人工魚礁が数多く投入された海域で、マダラが集まるようになった実例があります。こうした考えのもとに本調査事業はスタートしました。

    • 図

試験構造物の設置

  本調査は、北海道西岸日本海後志支庁管内の島牧沖水深200メートル前後の海域で行いました。海域選定の理由は、(1)過去にマダラの代表的漁場であった、(2)沿岸漁業でのみ利用されており、漁業情報の収集が容易で、調査協力も得やすい、(3)この海域周辺のマダラを1つの資源集団とみなせる、(4)実験海域は急深で陸地に近いため、試験構造物の位置を正確に確認できる、などの条件から決めました。

  平成4年度の海底地形調査および海洋観測・漁獲調査で、陸棚縁辺部は水温2~度とマダラにとって適水温で、周年マダラが生息していることが分かり、さらに水深200~210メートルに構造物を設置し易い比較的傾斜のなだらかな場所を見つけました。

  そして平成6年8月に、高さ10メートル規模の大型構造物2基と3メートルの小型構造物32基をわずか50メートル×100メートルの範囲に設置することに成功しました(写真1)。本調査のもう一つの目的である、大水深域(水深200メートル)で精度の高い設置技術を実現できるかという課題も解決できました。

マダラの蝟集効果調査結果

  さらに設置後1年の平成6年7月には、自航式水中テレビを使用して、設置海域周辺の観察を行いました(写真2)。

  試験構造物の設置されている海底は、基盤(岩盤)上に砂礫(れき)が堆積する混合底質で、砂泥が薄く積もった海底表面上に多量のクモヒトデ類が見られる場所でした(写真3)。そして構造物の内外に16尾(事業規模1空m2当たり0.02尾、高さ3メートルの小型構造物1個当たりでは0.58尾)のマダラを確認できました。特に構造物が接近していたり、積み重なっている所で蝿実効果が大きいことが分かりました(写真4)。

おわりに

  現在、3ヵ年の調査結果を取りまとめ中です。水中テレビ観察だけでもマダラの蝿集効果は明らかですが、どの程度の資源増大と経済効果が期待され、皆さんの納得がえられる事業化に結びつけられるかは、今後の課題です。今回の試験調査事業が、協力していただいた地元の漁業者の皆さんや関係機関の皆さんのお役に立てるよう、発展させていくことができれば幸いです。(中央水試資源管理部 吉田英雄)
    • 写真1
    • 写真2
    • 写真3
    • 写真4