水産研究本部

試験研究は今 No.217「ギンナンソウの利用について」(1995年3月10日)

ギンナンソウの利用について

  本道の沿岸では時化(しけ)に合間を縫って、寒風をついての海藻摘みが行われ、この光景は風情に富み、本道の冬に風物詩として知られています。

  今年もその季節が始まり、あちらこちらの平磯で胴長やウエットスーツを身にまとい摘み篭を手にした姿が散見される頃となりました。摘み篭の中身は岩ノリやフノリ、マツモなどが主なものですが、かつてはギンナンソウも採藻の対象となっており、年間2,000トンにも及ぶ量の干しギンナンソウが全道の各派で盛んに揺られ壁の漆喰(しっくい)や、建築用糊料として利用された経緯があります。しかし、建築様式の変化した今日では食用として一部が採られているのを除いてそのほとんどが採取されることもなく雑海藻扱いされてい一るのが現状です。このことについては、本紙171号(平成5年1月21日発行)で、種類、成育分布および試作品として、ゼリー状食品の製造法などについて紹介したところですが、今回はプラザ関連調査事業として、宗谷支庁管内利尻富士町鬼脇産と、十勝支庁管内広尾町産のギンナンソウについて1年間試験を実施してきた中で得られた知見を紙面の関係もありますので、簡単に紹介します。

  一般成分は図-1に示すように、同じアカバギンナンソウでも日本海の北部にあたる利尻富士町産と、道東太平洋の広尾町産とでは諸成分中、粗タンパク質の含量に大きな差異が認められました。すなわち、広尾町産の3月、4月採取のアカバギンナンソウは同時期の利尻富士町産に比べ2倍の値を示し、また、粗タンパク質は、成長するに従って減少することが認められました。これは両者の成育する環境の差がもたらした結果と推測されますが、いずれにしてもギンナンソウを利用する上での品質的な一つの指標となるものと考えられます。
    • 図1
  ギンナンソウの遊離アミノ酸組成は図-2に示しましたが、アカバギンナンソウでは、タウリンが多く含有し、遊離アミノ酸総量の27パーセント?48パーセントを占め、次いで、グルタミン酸、シトルリン、アラニンが存在し、クロバギンナンソウではシトルリンがタウリン含量に匹敵して多く存在し、次いで、グルタミン酸、アンセリン、カルノシンが多いことが認められました。以上の結果から、紅藻類のギンナンソウは、タウリンとシトルリン含量が多いことが褐藻類のコンブとは特徴的に異なることが認められました。
    • 図2
  タウリンについては、本紙176号(平成6年3月4日発行)で、函館水試加工研究室の辻研究員によって詳しく述べられていますので参照願いますが、タウリンは、水産物に多く含まれるアミノ酸の一種で(1)血液中のコレステロールの低下(2)血圧降下(3)肝臓の解毒作用能の向上(4)坑不整脈の防止等に効果があるといわれ、栄養ドリンク剤や粉ミルクに添加されています。また、シトルリンは、近年、スイカの果汁から単離、命名された天然アミノ酸で、生体内では尿素回路のおけるアルギニン生合成の中間体として重要であるといわれています。

  ギンナンソウの無機質としては、いずれもNaやK、MgおよびCaに富みその他、Feも微量含有しており、ギンナンソウは機能性のある食品素材といえましょう。今後ギンナンソウが優秀な食品素材として見直されて、摘み篭の中に再度摘み取られることを祈念して、ギンナンソウのより幅広い活用法について今後も、取り組んで行きたいと思います。(釧路水試利用部 船岡輝幸 成田正直)