水産研究本部

試験研究は今 No.224「バカガイ人工種苗の中間育成について」(1995年5月19日)

バカガイ人工種苗の中間育成について

1:はじめに

第1図
  北海道栽培漁業総合センターでは、平成2年度からバカガイの人工種苗生産技術開発を進めており、これらの概要は「試験研究は今」No.150で紹介されています。この種苗をうけて桧山南部地区水産技術普及指導所が江差港(第1図)で延縄式による海中中間育成試験を実施しています。この取り組みについて紹介します。

2:試験経過

  1. 平成2年度試験:平成2年7月3日殻長20.8ミリメートルと12.3ミリメートルサイズの人工種苗を魚箱に砂を敷き垂下し試験を行いました。平成2年8月22日で、それぞれ37.1ミリメートルと27.9ミリメートルになり、生残率は87.9パーセントと24.9パーセントでした。
  2. 平成4年度試験:平成4年12月17日に9.9ミリメートルサイズの人工種苗を用い、育成器はプラスチック製の深さの違う2種類の容器(39.6×64.0×8.8センチメートルと39.0×63.5×13.7センチメートル)にトリカルネット製の蓋をしてゴムバンドで固定垂下し試験を行いました。(第2図)平成5年10月18日で33.5~39.3ミリメートルになり、生残率は75.5~92.5パーセントでした。
  3. 平成5年度試験:平成5年11月18日に5.7ミリメートル、4.0ミリメートルサイズの人工種苗を用いて平成4年度と同じ育成器に500個から2,000個収容して試験を行いました。平成6年4月14日で、大グループは8.3~10.1ミリメートルに小グループは4.3~4.8ミリメートルとなり、生残率は泥が堆積し18.6パーセントと1.5パーセントと低い結果に終わりました。また、平成5年5月21日から平成元年生まれと思われる満3年貝、57.1ミリメートルの天然稚貝を用いて1m2当たり20個から200個まで収容し試験を行いました。平成5年10月28日で66.4~70.2ミリメートルとなり生残率は100パーセントでした。
  4. 平成6年度試験:平成6年12月7日から4.0ミリメートルの人工種苗を用いて砂を入れない2種類の育成器(さけ・ます孵化用多段菊池式バスケットとさけ・ます用アトキンス式孵化盆)で試験中です。
    • 第2図

3:これまでの試験でわかったこと

  1. バカガイ人工種苗は越冬海中中間育成が可能であることがわかりました。
  2. 中間育成器の砂の厚さは稚貝の大きさにもよりますが、36センチメートルくらいが適当のようです。
  3. 砂の粒度は泥を含まない250~500ミクロン(細砂)くらいが良いようです。
  4. 収容サイズは殻長5ミリメートル以上でないと中間育成は難しいと思われます。
  5. 収容密度は現在のプラスチック製中間育成器では1,000~1,500個体程度が適正と思われます。
  6. バカガイの年齢と殻長の関係は、満1年で30ミリメートル、満2年で40ミリメートル~60ミリメートル、満4年で70ミリメートルに成長することがわかりました。バカガイは水温の上昇とともに急激に成長し、4月から10月までの成長は当年貝で20~25ミリメートル、満1年貝で16ミリメートル、4年目の天然貝でも10ミリメートル前後伸びました。

4:試験結果から判明した問題点

  1. 大量飼育方法の検討。
  2. 作業性の問題。
  3. 越冬期間中の温対策。
  4. 静穏域の確保が必要。

5:今後の対応

  1. 砂を使わない中間育成器の開発については平成6年度調査の継続として現在試験中であり、菊池式バスケットは軽くて使いやすく、平成7年2月の結果では成長・生残とも良好であり、大量飼育方法の確立と越冬期間中の泥対策の解決にもつながると考えています。
  2. 放流効果の検討。種苗生産及び中間育成技術の開発はいわば入り口の段階であり、これからが本番です。現在、中間育成試験で得られた種苗の放流追跡調査を実施しておりますが、放流50日後の残存率が平成4年産種苗で27.0パーセント、平成5年産で13.0パーセントであり、100日後では施設が砂に埋没しその後の追跡が不可能になりました。今年度は波浪の影響の少ない水深で調査を予定しています。

6:おわりに

  近年の桧山管内バカガイ資源は安定した生産量をあげていますが、後続群の発生がない等の不安材料があります。桧山管内では極めて重要な沿岸資源であり、資源管理の徹底を図りながら、人工種苗を放流するといった積極的なアプローチも今後は必要となってくると思います。(桧山南部地区水産技術普及指導所、函館水産試験場 水産業専門技術員)