水産研究本部

試験研究は今 No.225「高圧処理によるサケハム製造の試み」(1995年5月26日)

高圧処理によるサケハム製造の試み

   食品加工分野において圧力処理と言えば、圧力釜や高温高圧のレトルト装置を使用した処理が一般的に思い出されますが、これらは加圧し100度以上の温度を得ることにより主に肉、骨などの軟化、あるいは缶詰等の殺菌に使用されています。この時の圧力は数気圧と低いものですが、近年、数千気圧という高い圧力を食品に応用しようとする研究が盛んに行われています。この高い圧力が得られる機器を超高圧処理装置と言います。この装置は圧力により高い温度を得ることが目的でなく、圧力をそのまま食品素材へ利用することで注目されています。圧力は単位面積当たりの加える力で表しますが、一般的にキログラム/cm2、パスカル(pa)、メガパスカル(Mpa)が使用されています。

  この関係は次のようになります。

  1000キログラム/cm2≒100Mpa

  この装置を使用する利点として、加熱することなくタンパク質が凝固する。食品素材の味、香り、ビタミンなどの栄養素が破壊されない。加熱臭の発生がない等があります。

  ここでは、このような特徴を有する超高圧処理装置を用い、サケ肉に対する性状の変化やサケマスの製造について、ご紹介します。

  サケ肉に圧力をかけると、水溶性タンパク質は図1に示すように溶けづらさが増加するのに対し、図2の塩溶性タンパク質は100メガパスカル30分で急激に上昇し、それ以後、時間による変化は見られませんでした。

  圧力と硬さの関係を図3に示しましたが、硬さは圧力が高くなるに従い増加しました。また、圧力と生菌数の関係を図4に示しましたが、圧力が300メガパスカル以上になると生菌数は102個以下になりました。

  このように、サケ肉に高い圧力を加えるとタンパク質は変性し、硬くなり、微生物は殺菌されることがわかりました。次に、この性状変化を利用してサケハムを製造しました。

  製造方法の概略は以下のとおりです。
  原料→フィレー→調味→乾燥→整形→真空包装→加圧→製品

  先ず、原料を三枚おろしとし4パーセントの食塩水に1晩浸漬します。その後10度で14時間乾燥します。この時の水分量は約69パーセントでした。次にこれを長方形に成型し、生臭さを抑えるため薫液を噴霧して真空包装します。これを400メガパスカルで30分間加圧します。

  この製品の物性値を表1の市販ハムと比較しますと、B杜のロースハムに近い硬さ、弾力及び粘性値となり、食感的にサケの風味を有した畜肉ハム様の物が得られました。この技術の企業化には、さらに、いろいろな点を改良しなければなりませんが、今後このような圧力を利用した食品が多数見られるものと思われます。(網走水試紋別支場 金子博実)
    • 図1
    • 図2
    • 図3
    • 図4
表1 サケハムと市販ハムの比較
  硬さ(g) 弾力(%) 粘性(mm/g×100) 水分量(%)
サケハム 748 46.5 43.6 69.0
A社ボンレスハム 814 52.6 53.9 69.8
B社ロースハム 694 46.3 47.9 69.5
D社ソーセージ 391 58.6 39.5 67.4
E社角ハム 725 47.9 85.3 66.4