水産研究本部

試験研究は今 No.227 「市民団体、「国のお役所」を動かす!-河川改修工事の計画見直し-真狩川のオショロコマを守れ」(1995年6月9日)

市民団体、「国のお役所」を動かす! -河川改修工事の計画見直し- 真狩川のオショロコマを守れ

  治水や利水のための河川の改修工事これまでの河川改修では水を効率よく下流へ流す見地から、川筋をできるだけ直線化しコンクリートの連結ブロックなどで護岸する工事が主流を占めていました(写真1)。しかし最近では川に棲む生き物に配慮した「多自然型工法」と呼ばれる改修工事が行われるようになってきました。
羊蹄山麓の湧き水を水源とする尻別川支流真狩川(写真2)でも、平成元年度から8年度までの計画で源流部の約4キロメートルがこの多自然型工法で改修されつつあり、平成6年までに約3キロメートルが工事されました。この工法では、石垣の護岸や段差の低い落差工が取り入れられ、川筋は緩やかに蛇行し、川岸の樹木もいくらかは残されています(写真3、4)。工事は農業排水路整備事業の一環として、総事業費14億5千万円を投じて行われています。

  この真狩川源流域にはサケ科イワナ属のオショロコマ(写真5)が生息しています。本種はロシア、アラスカなど北半球の太平洋側に広く分布していますが、本邦のオショロコマは環境庁のレッドデータブックで希少種に指定されており、真狩川は世界の南限の生息地として貴重です。

  この真狩川で河川改修工事が行われていることが、平成6年9月にNHKのテレビ番組で放映されました。反響は大きく、11月には市民団体「北海道の森と川を語る会」(代表小野有五北大教授)が真狩村を視察し、改修工事の中止と復元を求める要望書を工事担当の小樽開発建設部倶知安農業事務所へ提出しました。要望のなかで小野代表は「改修工事で川底に敷き詰める石が大きすぎてオショロコマはまったく産卵できない」としてこのまま工事が進むとオショロコマが絶滅すると述べ、計画そのものについても「流域は水はけの良い火山灰地で、流量の変動も少ないのに、オショロコマの生息地をつぶしてまで工事する必要があるのか」と疑問を投げかけました。
実は平成5年から北海道立水産孵化場真狩支場も、改修工事によるオショロコマヘの影響を調べるために生息環境調査を行っています。その結果、改修された場所では稚魚の生息に不可欠な流速の遅いところやクレソン等の茂みがないことが明らかになりました。河川改修がオショロコマの稚魚の生息にも大きな影響を与えると考えられるため、平成5年11月に真狩支場は倶知安農業事務所へこの問題点を指摘していました。

  小樽開建倶知安農業事務所は「語る会」の要望に対し、「自然に配慮した工事をしてきたつもりだったが理解が浅かった」として全面的な工事計画の見直しを確約しました。これら市民団体と開建の動きは新聞、テレビなどで取り上げられ、開建の対応は高く評価されました。

  オショロコマは生涯を通じて実に多様な環境を必要とします。稚魚の隠れ家となる水草の茂み、餌となる昆虫を提供し夏季の水温上昇を抑えてくれる河畔林、産卵床を形作る粒径3?10?の砂利の川底…。今回の真狩川河川改修問題によって、真の意味での「自然に配慮した河川改修工事」が現状では行われていないことが露呈されました。また一般の人たちの自然とりわけ野生生物の保護に対する関心の強さと「お役所」に対するパワーのすごさを見せつけられました。これらのことを良い教訓に、自然と人間が共存するための開発のあり方を、官民一体となってさらに深く論議していかなければと思います。(北海道立水産孵化場真狩支場 鷹見達也)
    • 写真1
    • 写真2
    • 写真3
    • 写真4
    • 写真5