水産研究本部

試験研究は今 No.232「オホーツク海のケガニ浮遊幼生の分布動態を解明するために」(1995年7月14日)

オホーツク海のケガニ浮遊幼生の分布動態を解明するために

今までの研究成果

  南西部オホーツク海は、オホーツク固有の冷水域に宗谷海峡から対馬暖流の支流として宗谷暖流が流入し、顕著な潮目を形成する海域です。この海域に生息する代表的な水産資源の1つとしてケガニがあげられます。ケガニ資源の変動は、8年前後の周期で卓越年級群が発生すると言われています。オホーツク海のケガニは3~4月ころ孵出し、約3ヶ月の浮遊期間を経て着底しますが、この時期の減耗が問題で、その後の資源に大きな影響を与えるものと思われます。ケガニ浮遊幼生は、自動力は小さいため、海洋の流れに対して受動的に移動しているものと考えられ、海洋構造との関係を解明する必要があります。

  この様な背景から、従来より稚内と網走水試ではケガニ浮遊幼生の分布調査を行い、徐々にその動態が明らかになってきました。図1(a)はケガニ浮遊幼生の分布(雄武沖、1982年)、(b)は水温分布を示しています。沖から岸に向かって中冷水の侵入が舌状に見られ、その先端にケガニ浮遊幼生が数多く分布しています。この様なケガニ浮遊幼生の集積がオホーツク海では、よく見られることが大槻により示されています。筆者は、この集積機構を明かにするため、流体数値計算(2次元マルチレベルモデル)を行ってみました。(C)は、実測した水温・塩分をもとに海水の流動を計算したものです。岸から10マイル付近に流れが集まる傾向にあり、ケガニ浮遊幼生の集積位置と良く一致することがわかります。この様に、海洋の物理環境とケガニ浮遊幼生の分布は密接に関係していると考えられます。

今回の調査目的・内容

  オホーツク海は宗谷暖流の流入により冷水域との境界で渦の見られることが知られています。この現象は、流氷の移動でも確認されています。また、中冷水の侵入によって図1(c)の様な流れが生じることも分かってきています。さらに、ケガニ浮遊幼生の走光性などによる鉛直方向の移動もまた分布を考える上で重要なものです。そこで、今年は、海洋の物理環境とケガニ浮遊幼生の分布について3次元的に調査を行うことにしました。調査は北洋丸で6月中に2度行います。なお、この研究は東京農大と共同で進めています。
1.広域調査
目的:オホーツク海全域におけるケガニ浮遊幼生の分布を調査する。この調査は昨年から行っており経年変動を見ることも含んでいます。
期間:1995年6月12日~6月16日
測点:定期海洋観測点に追加点を加えた44点(図2(a)参照)
調査:(1)CTD測定、(2)丸稚ネット表層曳(GG32、2ノット、10分間)、(3)02線で植物プランクトン採集
2.詳細グリッド調査
目的:海洋の物理環境とケガニ浮遊幼生の分布特性について、細かな格子を設定し詳細な調査を行う。
期間:1995年6月19日~6月28日
測点:浜頓別?汐留沖で約8キロメートル間隔の測点(図2(b)参照)
調査:(1)CTD測定、(2)流速、(3)照度、(4)丸稚ネット表層曳き(GG32、2ノット、10分間)、(5)丸稚ネット鉛直曳(GG32)、(6)MTDネット多層曳(NGG32、15分間)、(7)表層及びナンセン採水(植物プランクトン)

期待される成果

  今回の調査によって解明されるであろう研究成果、特に、ケガニ浮遊幼生の発生量を定量化する上で問題となっている点について示すと次のようになります。
  1. 平面的な渦とケガニ浮遊幼生の分布
  2. 鉛直方向の循環流とケガニ浮遊幼生の分布
  3. 水中照度とケガニ浮遊幼生の分布
  4. ケガニ浮遊幼生と動・植物プランクトンの分布
  5. 動・植物プランクトンの群集構造
  6. ケガニ浮遊幼生の胃内容物
  7. 丸稚ネットの採集効率(水平、鉛直)
  現在、筆者は[波・流れによる卵および浮遊幼生の移動予測手法の開発]を進めています。今回の調査がこの様な予測手法のモデル化に対して貴重な知見を与えてくれることを期待しています。
    • 図1
    • 図2