水産研究本部

試験研究は今 No.234「礼文島における海藻群形成試験について」(1995年8月4日)

礼文島における海藻群落形成試験について

はじめに

  各地で磯焼け克服のため様々な取組がなされていますが、近年ここ礼文島においても磯焼けが見られ、何等かの対策が急がれています。そこで組合、役場等の関係機関が集り磯焼けの持続要因の一つと考えられているウニ類の食害を避けるため、磯焼け地帯からウニ類(エゾバフンウニやキタムラサキウニ)を除去し、海藻群落を形成させるため実証試験を行いました。

試験方法

  礼文町起登臼山中地先(水深3~4メートル底質は岩盤および玉石)に沈降ロープで囲い、ウニ類を除去した『除去区』(400平方メートル)を設け、除去しない『対照区』を除去区よりも浜なりに50メートル程北側に設定しました。ウニ類の除去は平成5年11月から平成6年3月までほぼ毎月1回で計6回常時3~5人でスキューバ潜水により行いました。

  追跡調査は平成6年4月から平成7年6月まで、原則として月1回行いました。

  調査では除去区内を5点、対照区内を3点それぞれ1平方メートルの枠を用いて海藻及び動物を採取しました。

海藻繁茂状況

  ウニ類を除去する前の両区の生育密度は、どちらも1平方メートル当たり10個(200.0~252.0グラム)程度で、それ程差のない状態でした。海藻はスガモが若干見られるだけでした。

  除去を開始して2ヶ月後の平成6年1月には、除去区ではスジメやワカメの幼体が見えてきましたが、対照区には、ほとんど海藻が生えてきていませんでした。その後ウニ類の生息密度はゼロに近く、海藻群落が徐々に形成され、5、6月にはリシリコンブ、ワカメ、スジメの3種が優占種の海藻群落が形成されました。一方対照区は海藻繁茂の密度が低いうえにフクロノリやケウルシグサといった雑海藻が多い傾向でした。

  試験期間前半の両区の海藻群落を比べると、各種海藻の本数は対照区が多いものの総重量は除去区の方が重い傾向にありました。リシリコンブを例にとると、1平方メートル当たりの本数が除去区は45.6本、対照区は49.3本、除去区の総重量が907.0グラム、対照区は234.6グラムとなりました。つまり、1本当たりの重量では除去区の方が対照区より重いということになります。

  8月頃から両区の海藻に『裾枯れ』が見え始め、各種海藻の合計重量が減少していきました。除去区の中に裸地が徐々に現れ始め、ウニ類の生息密度も若干上昇しました。

  10月以降、除去区のリシリコンブは再生しているのも何本か見え始め、また新たなリシリコンブ、ワカメ、スジメ等の幼体が見えてきました。平成7年3月の時点で2年コンブは1平方メートルに約20本程あり1本当たりの平均重量は42.5グラムでした。

  7月に除去区内の2年コンブを全数採集したところ81本(約21キログラム)採集出来ました。これらの平均葉長は128.8センチメートル、平均葉幅は14.0センチメートル、平均重量は265.0グラムでした。採集したコンブを乾燥させた結果、約4キログラムの製品コンブが出来上がり、平均歩留りは17.7パーセントでした。

考察

  礼文島では11月から3月までウニ類の生息密度をゼロに近くなるまで除去するとリシリコンブを主体としたワカメ、スジメを含む有用海藻の海藻群落が形成されることが実証されました。

  一方対照区にも海藻が若干繁茂したことは、平成6年は比較的海藻繁茂の状況が良く、また対照区のウニ類の生息密度が1平方メートル当り10個(200.0~252.0グラム)程度ならば、海藻が繁茂する可能性があると思われます。ウニ類の生息量をゼロにしなくても、ある程度減らすことにより、海藻が繁茂すると考えられます。

  ウニ類の除去は、漁業者自らが簡単にできる方法が望ましいと思われます。例えば、籠やタモ網を使用した除去も考えられます。

  形成された海藻群落については、コンブ漁場としての利用も、未利用ウニ類の餌場としての利用も考えられると思われます。(礼文地区水産技術普及指導所)(稚内水産試験場:専技)
除去区の1平方メートル当たりの各種海藻本数及び重量月別変化
海藻名 H6  4月 5月 6月
リシリコンブ 45.6本 907.0g 45.4本 3,594.7g 35.0本 3,546.6g
(19.9g) (79.2g) (101.3g)
ワカメ 5.2本 511.5g 3.2本 504.7g 2.8本 1,269.3g
(98.4g) (157.7g) (453.3g)
スジメ 15.2本 1,449.4g 15.6本 3,118.7g 13.8本 1,915.1g
(95.4g) (199.9g) (138.8g)
その他海藻 771.2g 338.9g 194.2g
合計 3,639.1g 7,557.0g 6,925.2g
海藻名 7月 8月 9月 10月 11月
リシリコンブ 23.0本 2,070.7g 33.8本 4,043.9g 13.2本 956.7g 18.8本 1,470.5g 10.8本 579.7g
(90.0g) (119.6g) (72.4g) (78.2g) (53.7g)
ワカメ 1.6本 293.0g 0.8本 162.9g 1.2本 36.5g 0g 0g
(183.1g) (203.6g) (30.4g)    
スジメ 9.2本 589.2g 9.8本 577.6g 0.6本 4.3g 0g 0g
(64.0g) (58.9g) (7.2g)    
その他海藻 83.6g 17.8g 0.0g 74.6g 21.8g
合計 3,36.5g 4,802.2g 997.5g 1,545.1g 601.5g
海藻名 H7  2月 3月(太字:2年コンブ) 6月
リシリコンブ 56.8本 71.9g 178.7本(21.3本)1,045.2g(904.4g) 73.4本 2,330.0g
(12.7g) (5.8g) (42.5g) (31.3g)
ワカメ 30.4本 153.7g 14.0本 248.9g   2.0本 344.0g
(5.1g) (20.7g)   (172.0g)
スジメ 88.0本 536.0g 114.7本 1,617.1g   43.6本 1,606.0g
(6.1g) (14.1g)   (36.8g)
その他海藻 1,003.2g 162.3g   306.8g
合計 1,764.8g 3,977.9g   4,586.0g
( )の数値は1本当たりの重量
ウニ類除去数及び1平方メートル当たりの生息密度と重量
  • 除去区 除去期間 平成5年11月~平成6年3月
  11月 12月 1月 3月 合計
個数 4,116個 202個 319個 52個 4,689個
重量 87.1kg 3.3kg 9.7kg 1.2kg 101.3kg
生息密度 10.3個 0.5個 0.8個 0.13個  
重量 200.0g 10.0g 20.0g 3.0g  
  • 対照区
  H5 11月
生息密度 10.8個
重量 252.0g