水産研究本部

試験研究は今 No.235「シシャモの新しいふ化」(1995年8月11日)

シシャモの新しいふ化

はじめに

  シシャモの孵化放流事業には、自然産卵と人工受精による方法があります。これらの方法は、付着卵であるシシャモ卵を砂利に付着させ、この砂利を孵化槽に収容し、孵化まで管理しています。しかし、卵を付着させる基質として砂利を用いるため、取扱いが困難なこと、孵化施設が大型になること、そして施設に対して収容する卵数が少ないことが問題となっています。これらの問題を解決するために、まず卵の持つ粘性を除去することが必要であり、次に卵を大量かつ集約的に管理するより効率的な方法の検討が必要であると考えました。

  そこで、今回私たちは、効率的なシシャモ卵の孵化技術を開発することを目的とし、卵の粘性除去の可能性、タンニン酸処理が卵の発生に及ぼす影響並びに卵の大量管理の可能性について検討しましたので、その概要についてご紹介したいと思います。

卵の粘性除去

  私達は、タンニン酸を用いてシシャモ卵の粘性を除去することが可能であるかを検討するとともに、卵の粘性除去に必要なタンニン酸処理濃度を調べました。その結果、シシャモ卵の粘性はタンニン酸で除去され、0.05パーセント以上の濃度のタンニン酸溶液で90パーセント以上が、0.15パーセントタンニン酸溶液でほぼ100パーセントに近い卵の粘性が除去されたことから、実用的には、この濃度の溶液を用いることが望ましいと考えました。(図1) 

タンニン酸処理が卵の発生に及ぼす影響

 現在のところタンニン酸処理した卵(以下、タンニン酸処理卵)の発生に関して奇形の出現率は、処理しない卵(以下、無処理卵)より高いという結果はでていません。また、これまでの報告においても、タンニン酸処理卵が無処理卵より生残率が低いといった結果もありません。そして、私達の実験結果では、タンニン酸処理卵の生残率が、無処理卵と同様に高い値を示しました。ただし、今回私達は、8度でシシャモ卵を管理すると、タンニン酸処理した卵が無処理の卵より数日早く孵化することを観察しました。この原因に関しては、現在調査中であり、また孵化仔魚の種苗性に関しても今後調査する必要があると考えています。

卵の管理方法

  図2に示したビン式孵化器(二升ビンを逆さまにしたようなもの)を試作し、これに大量の卵を収容しました。卵を受けるネットは市販されているストッキングと0.3ミリメートルの目合いのろ過ネットを使用しました。飼育水は、孵化器下部から毎分約3リットルの水量を注入し、ビーズによって水流を分散し、卵全体に均一に水が流れるよう工夫しました。なお、水生菌の発生を抑制するためマラカイトグリーンによる薬浴を週1回行いました。孵化成績に関して、タンニン酸処理卵は、無処理卵と同様に90パーセント前後の高い生残率が得られました。従って、試作した孵化器で卵を効率的に管理し、孵化させることが可能になりました。

終わりに

  今回、タンニン酸処理卵の孵化開始時期が無処理卵より数日早まることが明らかになりましたが、その原因については現在調査しているところです。また、タンニン酸処理卵から孵化した仔魚の種苗性についても調査しなければなりません。このほかに、私達が開発した技術を現場で応用する際に様々な問題が生じると思われます。現在、シシャモの孵化放流事業を行っている所で問題になっていることは、河川水を孵化用水として利用しているために孵化槽に浮泥が堆積することと、厳冬期における結氷があります。浮泥が、孵化器内に堆積すると卵全体に均一に流れていた水流に偏りができてしまいますし、結氷は、卵ばかりでなく孵化器までも破壊してしまう可能性があります。一方、シシャモがいつ孵化して、いつ降海し、何を食べて成長するか等、シシャモの生態を調査することは、人工種苗の放流時期と放流量を決定する上で重要な課題であると考えています。以上述べてきた通り、シシャモの孵化放流事業には多くの課題が残されているわけですが、これらを解決した上で、この技術は完成されると考えています。

  最後に、シシャモと同様に付着卵を持つ魚種には、ワカサギ、アユ、チカ並びにキュウリウオがいます。これらは、キュウリウオ科というグループの魚であり、今回紹介した技術が将来的には、これらの魚種でも応用できる可能性があり、今後研究する必要があると考えています。(北海道立水産孵化場養殖技術部 楠田 聡)
    • 図1
    • 図2