水産研究本部

試験研究は今 No.236「中央水産試験場に品質保全科新設」(1995年8月25日)

央水産試験場に品質保全科新設

はじめに

  消費者は魅力のある食品として美味なものはもちろん、成人病予防などに効果のある健康性を志向したものや高い安全性を有するものなどを求めています。最近は様々な発ガン性物質や残留農薬、さらにはカドミウム、ヒ素などの重金属の問題が注目されており、食品の安全性についての世間一般の関心は特に高くなってきています。

  製造業者もPL法(製造物責任法)の施行により、食品の安全性については以前にもまして注意を払わなければならなくなってきています。また、EU(欧州連合)への輸出についてもHACCP(危険分析と重要管理点管理)に基づく新規制が施行され、水産食品の安全性、健全性が強く求められる状況になってきています。

  このような状況を踏まえ、今年6月1日付けで中央水産試験場に“水産物の安全供給”を担当する「品質保全科」が設置されました。水産試験場では以前から食品の安全性に関わる研究を行っていましたが、これからは組織として重点的に取り組むことができるようになりました。

仕事の内容

  水試は、これまで食品の安全性に関する課題として、(1)塩たらこの発色剤として使用される亜硝酸塩の適正使用、(2)かずのこの加工処理に使用される過酸化水素による漂白方法、(3)水産食品の油の酸化による過酸化脂質の生成抑制などについて試験研究を行ってきました。新しく設置された品質保全科が現在、主として取り組んでいる課題は、ホタテ貝毒の減毒化とホタテ内臓の有効利用です。

  北海道では、昭和53年以来、毎年のように麻疹性貝毒が発生し、ホタテガイの漁業生産に大きな支障がでています。品質保全科では、ホタテガイを含む様々な海洋生物における貝毒の分布調査を実施し、水産物の食品としての安全性の確認を行っています。さらに、酵素、微生物を利用した穏やかな条件でのホタテ貝毒の減毒化の道を探っており、その防除技術の開発を進めています。これについては、相当な困難が予想されますが、水産食品の安全供給を目指して少しずつ前進していこうと考えています。

  ホタテ内臓の利用については、直接的には食品の安全供給とはつながりません。しかし、中腸腺(ウロ)にはカドミウムが含まれており、安全性の面から、その利用には制限があります。そのため、ウロからのカドミウムの除去と利用を同時並行的に進めることが必要になります。これについては他の道立試験研究機関と共同して研究を行っており、水試ではウニ、アワビ餌料への利用について主に研究を進めています。

  このほか、北海道沿岸水産資源の重金属蓄積状況調査を昭和48年以来実施してきています。
    • 毒貝の分析
    • アワビの飼育

おわりに

  消費者の食品の安全性についての志向が高まる中で、日本の優れたタンパク供給源となっている水産物、これを生産する水産業に関わる水試としては、美味で安全な水産物を供給する使命があります。特に、安全性に関することでは、問題が起きてからでは遅く、近い将来に予測される課題を常に念頭において進めることが必要になります。これには、自然毒(貝毒、カビ毒など)や様々な化学物質(添加物等)、さらには有害生物まで幅広くみる必要があり、その解決には多くの困難が予想されますが、多くの人が安心して食品を食べ、健康に支障をきたすことのないよう、今後とも最大限の努力をしていこうと考えています。(中央水試加工部 今村琢磨)
    • 余市加工プラザ