水産研究本部

試験研究は今 No.239「水産加工と膜分離技術について」(1995年9月22日)

水産加工と膜分離技術について

  最初に膜分離技術について少し説明します。現在、利用されている主な膜技術としては、精密濾過(ろか)(MF)、限外濾過(げんがいろか)(UF)、逆浸透(RO)および電気透析(ED)があります。このうち、精密濾過、限外濾過、逆浸透は極小さい穴のあいた膜を用いて圧力により溶液中の物質を分離するものです。これに対して、電気透析は電位差を利用するもので、わが国では海水からの食塩の製造に使われているほか、減塩醤油の製造やチーズホエーからの塩分の除去にも利用されています。

  精密濾過は数ミクロンから0.01ミクロン程度の物質を分離することができ、例えば細菌や酵母などの微生物やウイルス、赤血球、白血球は精密濾過により分離されます。このため、生ビールや生酒の除菌など食品から微生物を取り除く場合に精密濾過が使われています。

  限外濾過と逆浸透は、精密濾過よりもさらに小さい物質を分子レベルで分離する技術で、これらの技術は最近、食品工業等の分野において非常に注目されています。

  限外濾過と逆浸透の違いは、簡単に言うと膜の穴の大きさの違いであり、限外濾過膜は逆浸透膜よりも穴が大きくできています。

  限外濾過膜はたん白質や多糖類などの高分子物質は膜を透過しませんが、アミノ酸や塩類などの低分子物質は膜を透過します。一方、逆浸透膜は主に水だけを透過し、アミノ酸や塩類はほとんど膜を透過しません。最近の大型船には海水から真水を取るために逆浸透装置が設置されています。

  このように、膜の利用による分離・濃縮技術はいろいろな分野で応用され、食品工業でもリンゴ果汁の清澄化、トマトジュースの濃縮、酵素の精製など多くの実用化例があります。水産加工においても実用化例は少ないのですが、各種水産物の煮汁の調味エキス化、スケトウダラすり身排水からの有価物回収、塩カズノコ加工における塩水の回収再利用などの研究例があります。(表1)

  つぎに、膜分離技術を用いた雑海藻からのアルギン酸オリゴ糖の生産について紹介します。

  道東沿岸ではスジメやアイヌワカメなどの雑海藻が繁茂し、コンブ漁場の障害となっています。このため、これら雑海藻の有効利用を目的として、アルギン酸オリゴ糖の生産について試験を行いました。

  スジメなどの褐藻類には粘質多糖であるアルギン酸が20~30パーセント含まれていますが、生鮮スジメを低温貯蔵(5度)することにより海洋細菌の作用でアルギン酸が分解され、アルギン酸オリゴ糖が生成します。アルギン酸オリゴ糖とは静菌作用や血圧上昇抑制作用などの生理活性作用があるといわれている物質です。

  この分解抽出液にはアルギン酸オリゴ糖の他に高分子のアルギン酸やマンニトールや無機塩類などの低分子物質が含まれますが、最初に限外濾過膜を用いて高分子アルギン酸を除去します。つぎに低圧逆浸透膜による多段濃縮を行なうことにより、マンニトールなどを除去し、アルギン酸オリゴ糖を濃縮・精製します。(図1)

  水産加工と膜分離技術について述べましたが、未利用の水産物としては魚類やホタテ内臓などの加工残滓、サケやニシンの白子、海藻類など多くのものがあります。これらの水産バイオマス資源から有用物質を回収する場合、膜利用による分離・濃縮技術は有用物質の分離・精製の補助技術として有効な手段になるものと思われます。(釧路水試加工部)
表1 水産加工における膜利用の主な研究例
研究課題 使用膜 研究機関
ホタテ煮熟液の調味エキス化 UF、ルーズRO 北海道立工業試験場
塩カズノコ加工廃液の回収再利用 UF (株)サッポロ産機、北海道立工業試験場
カニ、エビ煮熟液の調味エキス化 UF、RO、ED 北海道立釧路水産試験場
イワシ煮汁(SW)からの調味料製造 UF(MR)、RO 同上
ホタテ、イカ、タコ煮汁等の調味エキス化 UF、RO 青森県水産物加工研究所
カニ煮汁、イワシ煮干液の調味エキス化 UF、RO 鳥取県食品加工研究所
イワシ煮汁(SW)からのタウリン回収 UF、ED (株)日本水産
イカ煮熟液からの調味料製造 UF(MR)、RO (株)ハチテイ、(株)オルガノ
スケトウダラすり身排水の再利用と有価物回収 MF、UF、RO (株)日本水産、(株)オルガノ、(株)日東電工
スケトウダラ煮汁(SW)からの有価物回収 UF(MR)、RO 同上
    • 図1