水産研究本部

試験研究は今 No.240「Q&A~水温観測は漁業生産にどのように役立ちますか。」(1995年9月29日)

試験研究は今 No.240「Q&A?水温観測は漁業生産にどのように役立ちますか。」(1995年9月29日)

Q&A? 水温観測は漁業生産にどのように役立ちますか。

  漁獲量調査等に比べ、水温などの環境観測調査は、その重要性が理解され難い面があります。幸い、近年は磯焼けに関する研究が進み、冬季間の高水温が磯焼けの被害を大きくさせているらしいことや、産卵期のホタテガイ漁場に不規則に来襲する冷水塊が、ホタテの産卵に悪影響を及ぼし、採苗の障害になるらしいことなどが明らかにされつつあります。

  ここでは、刻々変化する沿岸水温に関する情報を蓄積することにより、漁獲変動と環境変化の関連性を明らかにすることを目的として、網走管内の10単協で組織するネットワーク(オホーツク海漁場環境管理施設運営委員会)などが実施している沿岸の水温観測事業の成果が、どのように漁業に活用できるのか2、3の例をあげて紹介したいと思います。

  図1はオホーツク海沿岸海況漁況調査事業推進協議会が作成し、会員等に配布している人工衛星による海況図の一例です。

  例えば、この図によって沿岸の養殖業者は、今現在、ホタテ稚貝が異常をきたすほどではないものの、平年よりかなり高めの水温環境のもとで成長していることを知ることができ、さらに高水温が続く場合の対策を考えておくことができます。また、定置漁業者は昨年と同様に、間もなくマスが接岸してくることを予測し、その準備に取りかかることができます。

  ところが、図1では海表面だけの水温情報なので、ホタテガイやマスが実際に生活している水面下の水温環境の詳細が不明なため、予測はしばしば裏切られることがあります。

  そこでこの委員会では1991年に、オホーツク海南部沿岸の海況を水深別に、しかも時間を追って自動観測できる施設(SEACOM)を設置しました。この施設によって得られる情報から、ここに生息する生物生産の様子をより合理的に理解することができます。

  まず、移動性の少ないホタテガイの成長について、紋別の漁場と他の漁場、例えば斜里の漁場における6月1日からの積算水温を比較してみましょう。
    • 図1
  図2のとおり8月下旬に紋別では1,000度に達しておりますが、斜里ではまだ800度で、ホタテガイの成長に影響を及ぼす水温条件が両漁場では大きく異なっていることに気がつきます。

  また、これらの資料を長期間蓄積することによって、同一漁場における年による成長の遅速についても、同じ方法で予想することができます。例えば、能取湖における8月末の積算水温は、1993年には1,200度でしたが、今年(95年)は1,600度に達しており、今年は稚貝の成長が速く、稚貝の分散作業は一昨年より早めに行うことが有効であり、さらに来春の放流種苗は大型となることなどを予測することができます。

  このほかにも、オホーツク海南部沿岸の水温は春から夏にかけて表面だけが、いっきに上昇していきます。図3のとおり水深40メートル付近では、表面より1~2度低く推移しますが、時として水温が急激に昇降する場合があることなどが明らかになりました。
    • 図2
  ここでは割愛しましたが、サケ・マスをはじめイカやサンマなど移動力の大きい魚種については、これらの漁場形成などと水温は密接な関係がありますので、観測結果この方面でも広く活用されています。

  魚介類の成長・産卵・移動などに関係が深い水温の観測は、明日の漁業に多くの情報を示してくれるものとなるでしょう。

  水産試験場では、この運営委員会などから提供された資料を基に、水温の変化がそこに棲む魚介類の生活に与える影響について検討し、この結果を運営委員会などに報告します。このような情報交換を繰り返しつつ、この海域における魚介類の生物生産の様子をより合理的に理解し、より有効な対策・より精度の高い予測などができるように試験研究を進めています。(網走水試資源増殖部 門間春博)
    • 図3