水産研究本部

試験研究は今 No.244「マダラの種苗放流事業」(1995年11月10日)

マダラの種苗放流事業

  マダラの種苗を人工生産しようという試みは、日本では石川県で1972年、青森県で1980年から始められ、日本栽培漁業協会では能登島事業場で1984年から始められました。当初、ふ化した稚仔が、全長7ミリメートル前後で大量繁死するため、なかなか種苗生産がうまくいかず、ふ化直後の稚仔10~100万尾を放流していましたが、これまで多くの改良が重ねられて、1990年代には青森県と能登島事業場で全長3~4センチメートルの種苗が2~10万尾生産されるようになり、青森や北海道で中間育成が行われています。しかし、安定して大量の種苗を生産出来るようになるには、もう少し時間がかかりそうです。

  なお、漁業者による受精卵、ふ化仔魚放流も各地で行われており、北大の桜井先生の報告書を引用すると、「この事業は、1979年に最初に青森県下北半島の陸奥湾側に位置する脇の沢漁協によって開始され、1980年には約1,200万粒の受精卵の放流が行われ、その4年後には1億粒まで増加した。脇の沢では、1983年からふ化仔魚の放流も始められた。同様な方法は、北海道側の知内(1987年)、木古内(1990年)恵山(1988年)及び木直(1990年)などでも開始されるようになった」(カッコ内の年は、著者注)とされています。

  北海道では、今年度から国の「特定海域新魚種定着促進技術開発事業」による補助を受けて、マダラ放流技術開発試験を開始しました。この試験では、種苗生産、中間育成、放流の3つの分野でそれぞれ別表のように課題を設定しています。

  種苗生産では、まず親魚を確実に確保し、さらに性ホルモンなどによる成熟促進技術を検討します。成熟の促進は、海中の中間育成では6月下旬に稚魚の高温限界の17度に達するため、どうしても全長8センチメートル前後で放流せざるを得ないのを、採卵を早めてもう少し大きな種苗で放流しようとするものです。ふ化仔魚の飼育は、これまでの青森県や日栽協能登島事業場で開発された技術をもとに、安定して種苗が得られるように技術改良を図ります。この種苗生産における中心的な課題は、仔魚の餌料の栄養強化方法の検討になります。

   中間育成では、種苗生産で得られた種苗や日栽協能登島事業場の種苗を陸上や海中で育成し、餌料の質、量や水温と成長、生残の関係を調べます。

   放流技術では、当面、標識法の検討を行います。これまで多くの魚類で用いられてきた標識(体外標識)の多くは成魚用で、小さい魚体には適当ではありません。アリザリン・コンプレクソン(ALC)などにより、体内組織に刻印する体内標識は、再捕報告が得られにくく、マダラのように大量の買い取りによる調査の出来ない種類には効果的ではありません。このほか、天然の仔稚魚の情報を集めて、放流適地の選定などに利用します。

  最終的には、再捕結果によって放流効果を検討することになります。

  これらの試験は、種苗生産、中間育成は栽培センターで、放流技術は函館水試で担当し、水産技術普及指導所や町、漁協の協力によって進められています。現在、恵山町では、「海を育てる会」が中心となって、能登島産の種苗を用いた中間育成と放流を1993年から行っています。今年も6月19日に、黄色のリボンタックを装着した種苗(全長8センチメートル弱)2万尾を放流し、近隣の漁協等に再捕の協力を依頼しました。 (函館水試資源増殖部 宮本建樹)
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