水産研究本部

試験研究は今 No.247「ホタテウロのうま味成分回収技術について」(1995年12月8日)

「ホタテウロのうま味成分回収技術について」

はじめに

  本道周辺ではホタテガイの培養殖事業が大規模に行われていますが、水揚げ量の増加に伴って、加工工程で出るウロ(内臓)の量も増加し、処理場所での環境汚染や処理経費の増大などの問題が懸念されるようになりました。

  ウロにはタンパク質や脂質のほか「うま味」の成分である遊離アミノ酸などが含まれており、その有効利用が望まれています。

  しかし、一般に魚貝類の内臓には食物連鎖により自然環境中の重金属が濃縮されやすいという傾向があり、ウロの有効利用を図るためには、それに含まれる重金属、特にカドミウム(Cd)をいかに除去するかが課題となっています。

  今回は、ウロに含まれる有用な遊離アミノ酸の回収と、カドミウムの除去技術について紹介いたします。
ウロに含まれる遊離アミノ酸
図1
  ウロには「うま味」の成分である各種の遊離アミノ酸が含まれており、主要なアミノ酸の種類や量は、貝柱に含まれる遊離アミノ酸と良く一致しています。また、遊離アミノ酸の一種であるタウリンは血圧降下や動脈硬化予防などの薬理効果があり、健康性の点で注目されていますが、ウロの遊離アミノ酸の中では最も多く、貝柱の1.5倍の量が含まれています(図1)。

  このことから、ウロに含まれる遊離アミノ酸は、天然調味料や健康食品の原料としての利用が期待されます。
膜分離によるアミノ酸回収とカドミウム除去
  ウロでの遊離アミノ酸とカドミウムの存在状態を模式図で示しました(図2)。小さな丸はアミノ酸で、それが鎖のように長くつながったものがタンパク質です。また、ばらばらに存在しているのが遊離アミノ酸です。ウロの中では、ほとんどのカドミウムがタンパク質に結合して存在しています。そこで、ウロに水を加えて抽出した液を、水や遊離アミノ酸など小さな分子だけを通す「限外ろ過膜」という特殊な膜でろ過してやれば、カドミウムは結合しているタンパク質と共に除去され、遊離アミノ酸はろ過液に回収されます。さらに、ウロのタンパク質を酵素で適度な大きさに切ってやると、タンパク質から切り出されたアミノ酸も加わって、回収される遊離アミノ酸の量は増加することになります。

  図3は、実際にウロの抽出液を限外ろ過膜を使ってる過したときの結果です。抽出液の遊離アミノ酸濃度は、限外ろ過を行ってもほとんど変化しませんでしたが、カドミウム濃度は約8分の1に低下しました。一方、ウロを酵素分解してから抽出・限外ろ過したものでは、遊離アミノ酸が酵素反応の時間とともに増加し、2時間の反応で約2.5倍となりましたが、カドミウムの増加はほとんど見られませんでした。
    • 図2
    • 図3
水産試験場では以上の結果に基づいて、魚貝類内臓の「うま昧成分」抽出液を限外ろ過することにより重金属濃度を低減させることを骨子として「魚貝類エキスの製造方法」を、現在、特許出願しているところです。(網走水試紋別支場 野俣 洋)