水産研究本部

試験研究は今 No.249「トヤマエビの大量生産技術確立する」(1995年12月22日)

試験研究は今 No.249「トヤマエビの大量種苗生産技術確立する」(1995年12月22日)

トヤマエビの大量種苗生産技術確立する

はじめに

  トヤマエビは、通称ボタンエビと呼ばれ、刺身、塩焼きなどに利用されています。北海道における漁獲量は700~1,100トンで推移していますが、主要漁場である噴火湾のトヤマエビの資源にはかげりがみられています。

  トヤマエビは2、3年で漁獲対象となることから、有望な栽培漁業対象種として、北海道立栽培漁業総合センターで1972年から種苗生産技術の開発を進めてきました。1990年からは、大量に種苗を生産する技術開発に取り組み、現在そのマニュアル化を進めています。

  ここでは、今までに得られた知見からトヤマエビの種苗を生産するための手順について簡単に紹介します。

  例として幼生を20万尾収容し、体長12ミリメートルの稚エビを10万尾生産する際の過程表を図1に示しました。
    • 図1
1.親エビの確保と飼育
  トヤマエビは一般に5~6月に産卵を行い、その後約10ヵ月の間、腹肢に卵を付けて抱卵します。そして翌年の3~4月に幼生が孵出します。種苗生産用には前年に漁獲された抱卵エビ、または孵出期の抱卵エビを親エビとして使います。前年の抱卵エビを用いる場一合では、9度前後の海水をかけ流し、冷凍オキアミを餌として孵出期まで飼育します。餌は雑魚でも十分ですが、残飯による水質の汚れに注意する必要があります。

  また、孵出期の抱卵エビを用いる場合、時期を逸すると幼生が孵出してしまうので、噴火湾では3月1日のエビ漁の解禁と同時に抱卵エビを搬入します。

  搬入した親エビは、1トン水槽または1トン水槽にセットした網篭(30~40目合)に収容しますが、20万尾の幼生を1つの水槽で飼育するには200尾以上の親エビを必要とします。

2.幼生の収集・収容
  親エビを入れた水槽で、幼生は約1ヵ月半にわたって孵出しますが、同一水槽に1週間以上にわたって孵出した幼生を収容すると成長の差が大きいために共食いが起こって生残率が低下します。そのため、同じ水槽には短期間(1週間以内)に孵出した幼生を収容します。

  噴火湾の場合、3月のエビ漁解禁と同時に抱卵エビを収容すると、ほぼ1週間以内に幼生が孵出するので、この幼生を1トン水槽の廃水口にセットしたゴーストネットに集めるか、タモ網ですくい取ります。これらの幼生を容積法で計算し、幼生20万尾を1Oトン水槽に収容します。
3.幼生・稚エビ飼育
  孵化した幼生は、遊泳肢が消失する稚エビになるまで6回脱皮をします。飼育は1日、1水槽当たり2~3回の換水量で行います。幼生期の餌料としては、孵出した幼生を10トン水槽に収容した日、または翌日からアルテミア*(3個体/m1/日)を給餌します。この給餌量は幼生から稚エビまで変わりません。

  稚エビになると残飯の状況をみながら、市販されている養殖釣り用のイサザアミを給餌します。ただし最初の1週間位はアルテミアも同時に与えるようにします。

  幼生は後期(ゾエア3期)になると泳ぐのを止めて水槽壁に付着するようになりますので、このころを目安に共食いによる減少を少なくするため、シェルター(エスランSSP-3)を70~100本垂下します。水槽の掃除は汚れをみながら月に2回ほど行います。

おわりに

  このようにトヤマエビの種苗生産技術はほぼ確立し、以上のような手順で種苗生産すると幼生から体長12ミリメートルまでは約50パーセントの生残率で、100万尾程度の生産が可能です。昨年から噴火湾渡島海域漁業振興対策協議会に技術移転を進めていますが、放流した種苗がどのような生活をし、どの程度が資源に添加されるかについては、まだ明らかではありません。今後は、水産試験場が中心となり、天然稚エビの分布や生態調査を進めることで、トヤマエビ栽培漁業の推進を図っていくこととしています。(北海道立栽培漁業総合センター貝類部)

*:補足 餌料としてのアルテミアの準備Nトン水槽に1日当たり3個体/m1のアルテミア幼生を給餌するために必要なアルテミア卵の重量(Xグラム)は下記の式で算出します。
X=3×N×10?/(25×10?×0.6)
X:必要なアルテミア卵の重量(グラム)
N:使用する水槽の容量(トン)
25×10?:1グラム当たりのアルテミアの卵数
0.6:投入した卵数に対する幼生の回収率