水産研究本部

試験研究は今 No.309「流れに対するホタテガイの行動について」(1997年6月27日)

流れに対するホタテガイの行動について-平成8年度の試験研究成果発表から-

はじめに

図 ホタテガイ
  皆さんこんにちは!

  僕は、小樽で育ったホタテガイの「スキャロップ」と申します。

  ところで、皆さんは、僕たちホタテガイがどんな物を食べて生活しているか知っていますか?

  実は、僕たちは、海水中に含まれている懸濁態有機物(ケンダクタイユウキブツ)というものを食べています。このような、僕たちの食性(どんな餌を食べているかいう性質)のことを、専門用語では「サスペンション.フィーダー(懸濁物食者)」と言います。ちなみに、イワシやニシンのようにプランクトンを食べる魚のことを「プランクトン・フィーダー(プランクトン食者)」と言っています。

  さて、餌の懸濁物は、海水の流れに乗ってやってきます。そこで、僕たちは、流れの方向に口(腹縁)を開けて、餌となる懸濁態有機物を食べているのです。だからといって、どんな流れに対しても、同じような体勢で餌を食べているわけではありません。そこで、今回は僕たちが流れの強さに応じて餌を食べる体勢を変えているというお話をします。

  なお、このお話は去年、中央水産試験場の水産工学室で「ホタテガイの波浪・流動耐性に属する研究」という仕事の中で行われた実験結果によるものです。

実験の方法

  実験には、小樽で育った僕たちの仲間(殻長約7センチメートル)が使われました。循環式回流水槽という設備に砂を敷き、貝殻が流れに対して4つの部位((腹縁、背縁、前縁、後縁)を向けるように配置した後、水温15度で流速0~30センチメートル/秒の流れを1時間作用させ、この間の移動方向や定位方向(流れに向ける体の部位)を記録しました。

実験の結果

  この実験の中で僕たちは、まず、殻をパクパクしながら水槽の中を跳ね回りました。そして、気にいった場所を見つけると、今度は、餌を食べやすい向きに体を回転させ、その後、周りの砂を体にかけて落ち着いたのでした。

  この時僕たちは、弱い流れ(流速5~10センチメートル/秒)に対しては、腹縁を流れに向けましたが、強い流れ(流速20センチメートル/秒)に対しては、後縁が流れの方に向くのを避けました。

  この「流れの向きに応じて体の体勢を変える」という行動は、餌を効率的に食べるためには、重要なポイントなのです。

  というのは、流れに腹縁を向ければ、僕たちは効率よく餌を取ることが出来るのですが、弱い流れの中では、腹縁以外を流れに向けても、大きな問題にはなりません。しかし、あまりに強い流れが後縁(厳密に言えば肛門)に当たると、その水圧によって餌がとれなくなってしまうということが僕たちの仲間の一種(アメリカホタテガイ)で知られているのです。

これからの課題

  流速20センチメートル/秒程度の速さの流れは、実際の海では、ごく普通に観測されます。
オホーツク海で行われている地まき方式で育つ仲間たちは、流れが変化しても餌を食べやすいように、体の向きを変えることが出来ます。しかし、噴火湾などで行われている垂下養殖方式ですと、僕たちは、耳吊りされたりしているので、流れに対して体の自由がききません。ですから、効率的な餌の摂取が妨げられているかもしれないのです。

  つまり、耳吊りされた僕たちの仲間では、しばしばお腹をすかせたままの状態で我慢させられていることがあるのかもしれません。

  これからの希望としてですが、現在の垂下養殖施設に改良が加えられ、僕たちホタテガイが、流れに対していつも効率よく餌を食べられるような工夫を研究してもらえば、と思っています。

おわりに

  そろそろ紙面も終わりに近づいてきました。

  いままでよりも、もっとよい成長が期待できる貝の養殖方法が開発可能になれば、きっとホタテ養殖業者の皆さんも喜ばれるのではないかと想いつつ、この辺で僕たちのお話はおしまいとします。

  *今回の文章内容は、平成8年度中央水試研究発表会要旨集から再編集し、ホタテガイの気持ちで書いてみました。
  なお、この記事に関して、もっと詳しい内容をお知りになりたいという方は、中央水産試験場の水産工学室(ダイアルイン直通電話:0135-22-2567)までお問い合わせくだされば、幸いです。

(中央水試 企画情報室)