水産研究本部

試験研究は今 No.344「ウニの子ども達を放す前に」(1998年5月22日)

ウニの子ども達を放す前に

  水産林務部栽培振興課では、毎年、水産技術普及指導所を通じ、全道各地区から集められ仁資料を基に、「浅海漁業概要調査」を行っています。この中でウニ漁業の漁獲高、漁業管理、種苗放流等の概要についてまとめています。この資料を基にウニ栽培漁業についてほんの少しですが、考えてみたいと思います。現在、増殖対策として最も盛んに行われているエゾバフンウ二人工種苗放流は、昭和50~60年代に確立された人工種苗生産技術により進められ、昭和63年以降飛躍的に放流数を増し、現在まで継続実施されてきました。第1図に示したように平成8年には全道で約6,000万粒の人工種苗と400万粒の天然種苗が漁場に放流されています。
    • 図1
  また、各地区で行われている漁獲管理についてみると、漁期、操業時間、殻径、漁獲量の制限等や禁漁区の設定等についてはほぼ全ての地域で実施されています。また、放流した種苗の成育を促進させるために、養殖による餌料生産と給餌を行っている地域もあります。このように全道各地でウニ栽培漁業は積極的に進められています。

  しかし、その結果の生産量の動向はどうでしょうか。第2図に昭和60年からのウニ生産量を示してみました。これを見ると、エゾバフンウニの生産量は昭和61年の820トンから平成8年では358トンと減少しており、残念ながら増加は見られていません。この原因については、様々なことが挙げられますが、夏の高水温による繁死現象等自然環境が原因とするものについては対策が講じ難い場合もあります。しかし、ウニ漁業の概要をまとめてみると意外なことが気になりました。
    • 図2
  平成7年5月に人工種苗放流によるウニ栽培漁業の定着を推進させる資料として北海道からエゾバフンウ二人工種苗放流マニュアルが発刊され放流から漁獲に至るまでの技術が紹介されています。この中で、放流手法や育成技術等の紹介の前に、「放流漁場の整備」、いわゆる放流する前にしなければならない重要なこととして、放流漁場に生息する外敵動物や競合動物を人為的に除去する必要があることを挙げています。

  この外敵として人工種苗を食べる動物は、カニ類、ヒトデ類、カジカ類ですが、特にヨツハモガニ・トゲクリガニ・クリガニ・イソガニ・ハナサキガニ・ユルヒトデ・イトマキヒトデは人工種苗を良く食べます。また、放流前にはあまり見られなかったこれらの外敵が、種苗を放流した後に群がってくることも明らかになっています。

  以前、人工種苗放流に立ち会い潜水観察を行った経験がありますが、まさに「羊の群に襲いかかる狼!」の如くイソガニが種苗を捕らえる姿を見たこともあります。意外と放流直後からの減耗が多い場合があります。

  そこで、人工種苗放流を行っている地域の外敵への対応を調べてみました。外敵の有無と除去対策等の有無について第3図に示しました。すると、「ウニ漁場の外敵を除去している地域」は種苗放流を行っている地域の内の僅か24パーセントに過ぎず、「外敵はいるが除去は行っていない地域」は38パーセントでした。また、「外敵はいないとする地域」は38%となっていますが、しかし、自然界の生態系の中で外敵も競合生物もいない状況は考え難いと思われるので、「外敵はいるが除去は行っていない地域」は更に増えると考えられます。漁業生産に効果が表れない原因のひとつとして、外敵の食害による減耗も思っている以上に多いのではないでしょうか。
    • 図3
  これら外敵の内、カニ類やヒトデ類の除去については、篭による捕獲が最も効率が良いとされています。また、ハナサキガニ等の有用種や移動量が大きく効果が表れるまで除去することが不可能な動物に対しては、出現数が少ない時期に放流することや、食害を低減させるためのシェルタ-の導入も考えられます。この他にもたくさんの方法がありますが、このような方法によって外敵からの食害を低減させ、放流後の初期減耗を抑えることが可能となります。

  以上のことから、ウニ栽培漁業により漁業生産を増加させるためには、種苗生産技術、放流技術、育成管理等まだまだ改善させなければならない部分もありますが、このほかにも漁業者自らが今すぐ出来る手段のひとつとして、外敵からの食害を抑える方法や、除去を実施することを検討すべきではないでしょうか。

  「権兵衛が種まきゃ、烏がほじくる」では如何なものでしょうか。

(函館水産試験場 主任水産業専門技術員 水鳥純雄)