水産研究本部

試験研究は今 No.346「「アブラガニ刺し網試験操業」について」(1998年6月5日)

「アブラガニ刺し網試験操業」について

網走水試では、平成6年度からアブラガニ資源調査を行っていますが、調査実施に至った経過および実施状況の概要についてお知らせします。

調査実施の経過

  網走支庁管内にはタラバガニ類を主漁獲対象とする「かに固定式刺し網漁業」が古くからあり、タラバガニやアブラガニなどを漁獲しています。両種は一見似ていますが、甲羅の心域の辣数や体色などで区別でき、また分布域もアブラガニはより低水温を好み、生息水深もやや深いなど幾分異なります。広い大陸棚上を漁場とする雄武・紋別海域では「かに固定式刺し網漁業」漁獲物の大部分がタラバガニであるのに対し、北見大和堆から網走湾の陸棚斜面を漁場とする網走海域ではアブラガニが約70パーセントを占めます。

  両種の生態・資源変動は幾分異なるものと考えられ、その違いに応じた資源管理を実施することにより、重なる資源の有効利用が図れるのではないかと考えられます。そこで網走海域(図1)で操業する「かに固定式刺し網漁業」を、平成6年度より「アブラガニ刺し網試験操業」(実施主体:網走漁協、協力機関:網走支庁・網走水試、網走漁協所属船3~4隻が試験操業に従事)に切り替え、アブラガニの資源・生態調査、漁業経営調査等を実施しています。この中で網走水試は資源・生態調査を担当、平成6~8年には特に網目選択性試験を、平成9年からはアブラガニの甲幅制限値の再検討を主課題として調査を実施しています。
    • 図1

網目選択性試験の結果

  タラバガニ属は、資源保護のため雌と甲幅13センチメートル以下の雄は採捕禁止であり、これらが網にかかった際には速やかに海中放流することになっています。当業船も投網の際は出来るだけこれら規格外のカニがかからないような場所を選ぶなどの配慮をしていますが、やはり混獲は避けられないようです。そこで、網の目合を変えることにより、規格外のカニの混獲を減少させることが可能か否かの試験を実施しました。表1に示した3種類の目合の網を使用して10回の試験操業を行い、名網毎の漁獲尾数を比較検討したところ、漁獲尾数は明らかに小さい目合の網ほど多く、7寸5分は1尺に比べで、雄で2.4倍、雌で4.6倍の漁獲があり、1尺2寸は同じく雄で0.5倍、雌で0.9倍にとどまりました。

  一方、10回の試験を漁獲されたカニの甲幅組成から2グループに分けて雄の選択性曲線を求め、図2に示しました。甲幅の大きいAグルーブでは各目合ごとの最適甲幅にズレはみられませんが、小さいBグループでは目合の拡大に伴って最適甲幅も幾分大きくなっており、小型個体に対しては網目選択性が幾分認められることを示しています。
    • 図2
 なお、雌では各目合による大きな違いがみとめられませんでした。この雄雌の選択性の違いは、雌の腹節(俗にフンドシ)が雄に比べて大きく、左右非対称であるため網にかかりやすいことに起因すると考えられます。

これらの結果から、目合の小さい網は小型個体に対する漁獲効率が大きすぎるため資源保護上好ましくなく、資源にとっては目合の大きい網を使用するほどよいと考えられます。しかし、あまり網の目合を大きくすると漁獲尾数が減少し採算性の問題も生じます。経営上の採算と資源に見合った漁獲強度を考慮して適正目合を選択することが重要でしょう。

甲幅制限値の検討

  前述のように、雌および甲幅13センチメートル未満めタラバガニ類は全て漁獲禁止となっています。これは生態が幾分明らかとなっており、漁獲量も多かったタラバガニを基準に設定されたもので、不明部分が多いアブラガニにも便宜的にその数値を当てはめたものと思われます。アブラガニについても、性成熟に達する甲幅サイズ、また少なくとも1回繁殖活動を終えるサイズ等を明らかにして、タラバガニと同様な甲幅規制が妥当か否かの検討が必要と思われます。そこで平成9年度より、生殖巣の組織学的観察、また鉗脚(俗にハサミ)と甲幅との相対成長比較などの手法から成熟状況を明らかにする調査を行っています。調査は継続中ですが、生殖周期は何年か、最適甲幅規制値はいくら位なのかなど資源管理に有益な生物情報が得られることが期待されます。

(網走水試 資源管理部)