水産研究本部

試験研究は今 No.347「ニシンの産卵場所を探す」(1998年6月12日)

ニシンの産卵場所を探す

1.なぜニシンの資源増大に藻場の調査?

  すでに北水試だより等で紹介されているように、道では平成8年から日本海ニシン資源増大対策事業を実施しており、かつてのニシン漁の賑わいをもう一度と地元漁業者もその成果を期待しています。ニシン資源の減少の背景には沿岸海況の変化、資源管理上の問題等、一要因では片づけられない多くの考えるべき事柄がありますが、近年よくいわれることは、沿岸の磯焼けの拡大や漁港周辺および沿岸道路等の開発・整備などで産卵場自体が失われつつあるのではないかということです。ニシンは産卵のために沿岸に群来し、海藻に卵を産み付けますので、事実であるならば、ニシン資源にとって大きな問題です。しかし、現在と、豊漁であった昭和20年台までの過去とを比較できるような産卵藻場に関する資料がほとんどない状態ではなにも言えません。そこで水試の二ニンプロジェクトの藻場部会では、水産指導所、地元市・町、および漁協等の協力を得ながら、厚田・留萌両沿岸域で、(1)(ニシンが産卵に利用できるような)藻場、大型海藻種の分布の実態を把握すること(2)二シンが実際にどのような海藻に卵を産み付けているのかを確かめて、産卵場としての好適環境を明らかにすること(3)藻場造成技術の検討と試験を実施すること、を主な目的とし、調査を進めているところです。それでは、今回は(2)についての調査に関する情報をお知らせします。

2.特殊指令:ニシン卵ヲ発見セヨ

  実は前年、同調査を始めましたが、ニシン卵が産み付けられた場所の確認はできませんでした。平成9年度の調査結果の検討会では「検討違いの場所を探しているのでは」「努力が足りないんでないの」など厳しい意見をもらい、うつむくだけであった我々は、平成10年は是非とも結果を出そうと決意を新たにしていました。また、留萌港内では、ニシンの卵が付着した流れ藻が見つかったこと、稚魚ネットでニシン稚魚が数匹採集されたこと、港内に位置する留萌川河口域では、海藻群落が比較的広い範囲で見られることなどから、ニシンが産卵に来る確率が高いと考えられ、産卵期の3月に、港内の藻場を徹底的に調査しようということになりました。海上保安部への港内作業許可申請は前年手間取りましたが、本年は調査準備を早く整えました。

3.報告:斜メ前方スガモ葉体上二、ニシン卵発見

  3月17日、まずは18日の港内での潜水調査の下見を兼ねて、河口域の北東側に位置する港内潮見地区の岸から胴付き長靴を着用して卵探しをしておりました。ここはスガモ群落が拡がっており、岩盤上に所々砂がついていて沖側には溝のような凸凹もあります。間もなく海藻調査歴20年のN主任に呼ばれ、急いで駆けつけてみると、箱メガネで海中を覗いていたその人は「そこについている白っぽいニシンの卵じゃないか。」といいます。半信半疑で箱メガネを奪い、海中を覗き、目を凝らすと、おお、水深僅か0.7メートルに成育するスガモの細い葉上にぼつぼつと半透明の丸いものが数個付着しています。手に取るとニシン卵のようです。周辺を探すと、ぼつぼつは広い範囲にあることがわかりました。しかし、風波もでてきたのでその日はそこで作業を中止しました。

  翌18日は、潜水班と合流し、留萌南部地区水産指導所とともに留萌漁協の指導船に乗り込み、卵発見場所へ向かいました。潜水作業は沖合から、他は岸側で卵を探しました。ニシンの卵はスガモ群落の水深0.5メートル~2メートルの広い範囲で、スガモ1株につき数粒~2000粒付着しており、他の海藻よりスガモを狙って産み付けられているようでした。スガモ場より深い、コンブ、フシスジモクを中心とした群落には、卵はほとんど付着していませんでした。また、この日留萌港外でも、水深1メートル前後のスガモ場に卵が付着している場所を発見しました。

  3月31日に留萌南部指導所を通して、漁業者から、小平町の臼谷漁港付近でニシン卵らしきものが海藻についているようだ、との情報があり、現場へ向かいました。ここも水深が1メートル程で、大型褐藻類ホンダワラの仲間であるフシスジモクを中心とした群落があり、岡の水深0.5メートルから沖側へ約40メートル、岸沿いに100メートル以上の範囲で拡がっていました。卵は藻体の基部と先端部を除いたほぼ全体に1株あたり数粒~3000粒付着していました。その後、留萌市三泊漁港付近でも小規模ながら、フシスジモク群落で卵が発見され、平成10年は留萌市~小平町目谷の広い範囲でニシンの産卵を確認することができました。

  また、4月初めには厚田村嶺泊のスガモ群落でもニシン卵の付着を確認したと中央水試資源増殖部から報告があり、ニシンの産卵場所についての知見が集まっています。産卵場に関しての調査結果の詳細は、今後、広報誌や調査・研究報告の場でお知らせしていきたいと考えています。
    • 写真1、写真2

(稚内水試 資源増殖部)