水産研究本部

試験研究は今 No.348「『隔日給餌法って~』」(1998年6月19日)

試験研究は今 No.348「『隔日給餌法って?』」(1998年6月19日)

「隔日給餌法って?」

「魚を大きく成長させるには?」

  忙しくてこの紙面ですら読む時間のない人のために、この問いの答えと要約は「魚を効率良く、大きく成長させるには隔日給餌のような、間欠的に餌を与える方法が最良であり、毎日与えなくても大丈夫!」・・・です。

  さて、時間のある方、あるいは興味のある方は読み進めてください。誰しも魚を大きくさせるには「毎日、たくさん餌をあげれば良い」と言う人、思う人がほとんどではないでしょうか。確かに、与える餌の量が少ないと、魚の成長は鈍り、あるいは成長が停滞してしまいます。さらに餌が少ないと、終いには痩せて、あるいは途中で病気に罹って死んでしまうかもしれません。餌の量が極端に少ない場合は別にしても、これらの話からは「魚に餌を常に与えなければ大きくならない」という印象しか受けません。そんな理由がどうかはわかりませんが、今日では、魚に毎日餌を与えるのが当たり前となり、現在に至っています。養魚では、このように毎日与えることを基本に1日にどのくらいの量を、何回に分けて与えればいいのか等、様々に餌の研究がなされてきました。

「自然界の魚達は飽食状態?」

  この問いに対する答えは「いいえ」です。自然界の魚は、養魚の中における魚種には毎日餌は当たらず、いつも空腹状態に置かれています。しかし、養魚魚に負けず劣らず大きくなるのが自然界の魚達です。「なぜ、自然界の魚達は、毎日腹一杯食べていないのに大きく育つのか、もしこのことが本当ならば、養魚魚にもあてはまるのでは・・・」と思いつきで始まったのが隔日給餌試験なのです。

「飽食時の胃の中は?」

  魚の摂餌行動から飽食状態と判断した時の胃の中の餌がどのように消化されていくかを調べますと、24時間後に食べた餌がすべて消化されるわけではなく、48時間後(2日後)にもわずかですが残っています。一般的に胃の中で消化は行われても、栄養の吸収は行われないことから、吸収時におけるタイムロスはなく、1日置きの給餌(隔日給餌)でも十分に魚は成長することが予想されます。
    • 図1

「事業規模の結果は?」

  サクラマス親魚養成過程において、隔日給餌を実際に事業規模で試験した結果が図2です。○で示した低成長が盆正月もなく毎日欠かさず餌を与えた年です。一方、口で示した高成長が隔日給餌、正確には春から秋までは月、水、金の週3回、冬場の水温が下がる時期には月、木の週2回の変則的な隔日給餌を行った年です。従来、500グラムサイズの親魚しか作れませんでしたが、隔日給餌によって1000グラムサイズの親魚の生産が可能となりました。卵数も従来の600粒から1200粒以上となり、作業効率が格段に向上しました。さて、事業的には成功しましたが、この結果が本当に隔日給餌の効果なのかを判断し、人を納得させるためのより客観的データが必要です。そこで・・・。
    • 図2

「実験規模での結果は?」

  試験は角水槽を使って、サクラマス幼魚(体重30グラム)100尾を3ケ月間飼育しました。餌は通常のニジマス用配合餌料を用い、毎日1回、1日置き1回、1日置き2回、3日置き1回餌を与える給餌区を4区設定して、各給餌区の成長を追ってみました。結果は、毎日餌を与えた場合に比較して、1日置きに餌を与えたとしても成長になんら違いはなく、むしろ大きくなる傾向すら認められます。このように隔日給餌にしても成長は変わりません。太り具合(肥満度)も同様で、3日置きですら痩せることはなく、毎日餌を与えていた時と変わりません。また、与えた餌の量は、1日置きの方が毎日に比較し7パーセント程度少なく、餌料効率も毎日より1日置きより3日置きと高くなりました。即ち、「1日置き等の間欠給餌は少ない餌で効率良く大きく育つ」ことが明らかとなった訳です。
    • 図3

「少ない餌でどうして?」

  まず、考えたことは「食べた餌の栄養吸収量が違い、排泄された糞の中の栄養成分量が異なるのでは・・・」ということで調べた結果が下表です。糞に残ったタンパク質、脂肪量はいずれも毎日給餌で多く、給餌の仕方で栄養の吸収量に違いがあるようです。
    • 表
最後に、「隔日給餌とは自然界の魚の摂餌生態を考えた1日置きの節約型給餌法である」と記して、結びと致します。

(水産艀化場 資源管理部 河川管理科長 小林美樹)