水産研究本部

試験研究は今 No.357「魚のオスメスが早くわからないだろうか」(1998年9月4日)

魚のオスメスが早くわからないだろうか

  生まれてくる子どもの性が男か女かは出生以前からわかります。では、魚の雌雄はいつからわかるのでしょう。形でわかるのは魚が卵を生む時期、産卵期に雄や雌は特別な変化を見せます。例をあげると、キンギョの雄では追い星というものがヒレや顔の回りに出ること、サケの仲間では雄の口や背中などに独特の変化が見られます。この現象は第二次性徴と言われています。第二次性徴がでる時期以前に雌雄を知るためには血液を調べます。雌は卵を作るとき雄にないタンパク質を血液中に持っていることから判定できます。では、もっと早く魚の雌雄がわかる方法はないのでしょうか。

  サクラマスの雌雄が早くわからないだろうか。水産艀化場では日本海側の漁業振興対策としてサクラマス放流事業を行っています。サクラマスは天然の川で生活した後で海に入るとき、雌の割合が7から8割と高くなっています。従って、早めに雌雄を判定する技術が必要となりますが、判定するには魚を1年以上飼育しなければなりません。稚魚の時に雌雄がわかれば、餌代も飼育場所などもかなり節約できることになります。

  天然のサクラマスは、浮上期あるいは体重1グラムほどの稚魚期の移動が雌雄により異なるとされています。この時期には、雄は一般に放流点よりも上流に、雌は下流に集まるらしいのです。そこで、水産艀化場では平成7年度から水産庁の委託事業である「生態系保全型種苗生産技術開発事業」のなかの「早期性判別手法の確立のための技術開発」研究に参加し、(1)サクラマス稚魚が天然河川ぞ採集地点により異なる性比をもつのか、(2)雌雄による移動の差を実験的に誘導できるのか、(3)他のサケ科魚類について雌雄による移動の差異があるのか、(4)それらの行動がどのような生理メカニズムに基づいて誘起されるのかについて研究してきました。

(1)サクラマス稚魚が天然河川で採集地点により異なる性比をもつのか

  平成7年から道央の漁川水系にサクラマス卵を秋に川床に埋め、翌年の5月から月1回ほど稚魚をサンプリングし、採集地点における雌雄の割合を求めました。その結果、各月とも卵を埋めた地点で70パーセント~80パーセントの高い割合で雄がみられ、その割合は最下流付近では約30パーセント~40パーセントと減少し、反対に雌の割合は下流はど高まっていました(図1)。
    • 図1~3

(2)雌雄による移動の差を実験的に誘導できるのか

  図2のような長さ360センチメートルの実験水路を作り、水路の上流部と下流部には捕獲用のトラップを設け、トラップに開けたストリット部の流速を10,20および30センチメートル/秒に設定し、トラップに移動した稚魚の雌雄を観察しました。その結果、流速10および20センチメートル/秒では、上流部、下流部とも雄の比率が高い傾向がみられ、流速30センチメートル/秒では、上流部における雄の割合が69パーセントに対して雌31パーセントと有意な差が認められました(図3)。

  この結果は、移動の差が流速によって起きている事を示しているようです。

(3)他のサケ科魚類にいて雌雄による移動の差異があるのか

  現在、研究中ですが、他のサケ科魚類のシロザケやオショロコマではサクラマスと同じ様な結果は得られていません。さらに、マスノスケ等を用いて検討する予定です。

(4)行動がどのような生理メカニズムに基づいて誘起されるのか

  大変難しい問題です。哺乳類等では雌雄で脳に違いがある(脳の性分化)とされており、それらの違いができるのは性ホルそンの違いによるものと考えられています。この研究でもサクラマス稚魚の脳に性ホルモンの受容体があるのかどうか、また雌雄で受容体に何らかの差が見られるのかを調べました。しかし、稚魚の脳に性ホルモン受容体はあるらしいのですが、その出現の様子に差はありませんでした。

  以上のように、実験水路を用いて人為的に稚魚期のサクラマスを雌雄に分けることが可能になってきました。最近は遺伝子から雌雄がわかるようですので、今後は分子生物学的に雌雄を判定する方法を今回の研究と合わせることで、雌雄判別法の確実性がより高まることが期待できそうです。

(水産艀化場 養殖応用科長 寺西哲夫)