水産研究本部

試験研究は今 No.360「道南太平洋のゲガニの移動」(1998年10月2日)

道南太平洋のケガニの移動

  漁協の掲示板などで「標識をつけたケガニを探しています」「再捕報告をお願いします」といったポスターを見かけられた方も多いかと思います。標識放流といいますと、「前浜にいる魚はどこから来てどこへ行くのだろうか?」とか、「放流しだ稚魚が前浜に戻って来るだろうか?」といったた疑問を明らかにする調査だと思われるでしょう。その他に、放流した時から再捕した時までの成長を調べて、魚の年齢毎の大きさを知ったりすることができます。

  道南太平洋のケガニ漁業または試験操業では、毎年のノルマI水域別漁獲限度量)を決めています。このノルマを決めているため便宜的に渡島・胆振と日高海域を分けて資源量を計算しています。

  しかし、この海域わけで本当に問題ないのでしょうか?それを検討するには、ケガニの移動や海域間の交流を知る必要があります。

道南太平洋のケガニの標識放流試験

  函館水試では室蘭支場を中心にこれまで数多くのケガニ識放流試験を行っててきました。標識放流は、1976年4月~1991年3月までの17年間に合計90回、噴火湾~えりも町までの187地点で行いました(図1)。

  放流尾数は雄が31,755尾、雌が1,785尾でその内、再捕されたのは雄が649尾、雌が29尾でした。
    • 図1

標識放流試験の結果

  雄ケガニの放流から再捕までの移動を表1で見てみましょう。まず、わかるのは、あまり大きな移動はなく、多くのケガニが、放流した前浜で再捕されていることです。ただ、室蘭~門別で放流したものは、西方へ移動するのも多いようです。噴火湾は、ケガニの資源量が少ない割に、大きいケガニがいます。そのことから考えても、湾外のケガニの中に、大きくなりながら噴火湾へ移動するものがいるのではないでしょうか。

  目黒で放流したものは、えりも岬周辺へ移動したものはなく、逆に、広尾や大樹へ移動するものが多いようです。またえりも岬周辺から目黒へ移動したものもなく、両海域間こはケガニの交流がありません。目黒の南側には、沿岸から沖合まで広い岩盤があるのですが、これが交流を妨げる障壁となっているようです。

  雌の再捕報告は少ないのですが、雄とは違った移動をしています。雌ケガニは、放流した前浜での再捕は少なく、ほとんどが他の海域へ移動しています。地球岬沖で放流したものは伊達~門別までの東西両方向へ移動し、白老と苫小牧で放流したものは西方へ移動しています。雌は交尾、産卵、幼生の孵出などの行動にともなって、生活場所を変えているのかもしれません。

  標識放流試験にご協力頂いた漁協関係者の方々、再捕報告をして下さった漁業者の皆様にお礼申し上げます。
再捕海域と再捕尾数
放流海域 砂原 八雲 長万部 伊達 室蘭 地球岬 登別 白老 苫小牧 鵡川 門別 静内 様似 えりも 目黒 大樹
砂原 24                              
八雲   7 2                          
長万部     32                          
室蘭       15 20 2                    
地球岬       22 46 49 5                  
白老           1 1 17                
苫小牧               4 46              
鵡川               1 31 45 1          
門別                   11 4    
静内 43
様似 4
えりも 1 127
目黒 5 10

お願い

現在、函館水試では、目黒とえりも(百人浜)の間のケガニの境界を確認するため、えりも町漁協と庶野漁協に協力して頂き、標識放流をしています。つきましては、標識(黄色)を付けたケガニを発見されましたら最寄りの支庁、指導所、水試までご報告下さい。規格外のケガニでも、標識を取り外し、再捕した年月日、場所、漁具、雌雄、甲長と一緒に報告していただければ結構です。

(函館水試資源管理部 三原栄次)