水産研究本部

試験研究は今 No.361「美味!オオミゾガイをご存じですか~」(1998年10月16日)

試験研究は今 No.361「美味!オオミゾガイをご存じですか?」(1998年10月16日)

美味!オオミゾガイをご存じですか?

はじめに

  オオミゾガイをご存じでしょうか?

  オオミゾガイ Siliqua altaは本州東北地方・北海道・千島以北の浅海の細砂泥底に棲み、長楕円形で黒褐色の殻を持つ北方系の二枚貝です。斜里ではホッキガイ桁網でオオミゾガイを年間数トン程度混獲しています。浜では美味な貝として知られ、地元のス一パーでも殻付を中心に販売していますが、価格が低い(キロあたり100円前後)ことが悩みです。現在の水揚げ量はわずかですが、付加価値を高め、価格を向上させることによって、地場の資源を有効利用したいというのが地元の意向です。

  オオミゾガイの加工については過去に知見が見当たらないため、原料特性や加工適性について調べてみました。

オオミゾガイの歩留りと成分について

図1
 以下は、97年10~11月のオオミゾガイについてのデータです。むき身歩留りは62パーセントで、他の二枚貝のむき身歩留りに比べてかなり高い値です(ホッキガイ20~30パーセント、ホタテガイ35パーセント~45パーセント、アサリ20~30パーセント、カキ10~20パーセント)。また、斧足部(いわゆる足)の成分は、水分77~78パーセント、グリコーゲン4パーセントでした。大・小サイズによる差はみられませんでした。また、遊離アミノ酸は約2パーセント含まれており、血中コレステロール低下作用をもつタウリン、呈味性アミノ酸であるグリシン(甘み)、アラニン(甘み)、アルギニン(苦み)が多く含まれ、この4つのアミノ酸で全体の9割を占めていました。他にはグルタミン酸(旨み)、ブロリン(甘み)などが含まれていました(図1)。タウリン、グリシン、アラニンが多く含まれる点は、ホッキガイやホタテガイと共通しています。

加工適正について

図2
  オオミゾガイの殻は、他に二枚貝に比べて薄く、脆弱です。金属ヘラを用いて殻と軟体部を分離すると、殻が容易に割れてしまいます、このため、オオミヅガイの脱殻は、煮熟またはスチーム加熱による方法が適切と思われます。この際、脱殻してすぐに水道水で冷却することにより、生に近い状態を保つことができます。また、オオミゾガイはホッキガイと異なりボイルしても斧足部の先は鮮紅色に変わりませんでした。オオミゾガイの斧足部は軽い甘みとブリンとした独特の歯蝕りがあり、あっさりと上品な風味で、生臭みもホッキガイに比べ少なく感じました。オオミゾガイのむき身には砂の混入が多く(特に水管部)、斜里第一漁協で2晩蓄養したにもかかわらず完全には砂出しできませんでした。蓄養で完全な砂出しができなければ、むき身を開いて、砂を洗い流す必要があります。

  オオミゾガイは殻が割れやすく、砂出しも時間がかかることから、加工用素材とするために、ボイルによって分離したむき身を冷却後、包丁で開き、砂、内蔵などを洗い流しました。この程度の簡単な加工でも、刺身や漬け物、揚げ物などの素材として十分に利用価値がでてくると思います。実際、斧足部に少量の塩、こしょうを振りバターで妙めたところ、職員一同「なるほど、これは美味!」と好評でした。肉質も軟らかく食用油との相性は良好のようです。しかし、醤油と砂糖で煮詰めた甘露煮はこの貝独特の風味が失われてしまいました。濃い調味は不向きのようです。

  また、オオミゾガイの生の斧足部を一晩凍結し、室温で解凍したところ独特の歯ごたえが失われました。ホッキガイと同様、オオミゾガイの生凍結、解凍は身の軟化をまねくようです。ボイルによって脱殼した場合はどうでしょう?ボイル時間を変えて試験したところ、3分間以上ボイルして凍結したものは解凍後の軟化がみられず歯ごたえの変化もありませんでした。

  以上、オオミゾガイは美味でむき身歩留まりが高いという特徴をもつ反面、(1)殻が割れやすい(2)砂出しに時間がかかる(3)身が軟化するため生凍結はできない、など加工上不利な点がありました。このため、オオミゾガイを刺身材料などに加工する場合、脱殻をかねて3分間程度ボイルし、斧足部を開いて凍結、冷凍保存する。というのが適切な方法と思われます(図2)

(網走水試 紋別支場 成田 正直)