水産研究本部

試験研究は今 No.375「 オホーツク沿岸でマツカワを追う!NO1」(1999年2月26日)

オホーツク沿岸でマツカワを追う!-その1-

  ここ網走水試前のオホーツク南部海域にも流氷がやってきました。この流氷原の下で、放流されたマツカワがどんな生活をおくっているのか気になるところです。

  私たちをはじめ調査担当者に気をもませる発端となったのは、平成4(1992)年に網走市水産科学センターが開所となり、水族館や飼育施設の「見せる魚」の目玉として、また、この海域での魚類の栽培漁業を展開する1つの試みとして、科学センターでのマツカワ飼育と海域への放流による放流追跡調査を開始したからでした。それから7年が経過し、マツカワが前浜で釣られたり、定置網や刺網にかかるようになり、再捕された報告が順調に寄せられるようになってきました。

  ここでは、7年間の取り組みの概略を2回に分けて紹介しながら、当地におけるマツカワの栽培漁業展開について考えたいと思います。

これまでの経過

  網走に搬入された種苗の生産機関や種苗数、中間育成数、中間育成終了数、生残率は表1の通りです。これでみると、2例を除き84パーセント以上の生残率を得ていることから、順調に種苗の配付を受けて中間育成してこれたことが、おわかりになると思います。その2例についてですが、種苗の搬入先が栽培漁業総合センターから日本栽培漁業協会厚岸事業場に切り替わった平成8年の種苗については、種苗サイズが小さかったことと、眼位異常個体や体色異常個体が多く、種苗の質が低下していたので、生残率は極端に低い結果となりました。また、平成10年については、飼育設備の管理不慣れの事故により中間育成中に全数斃死させる事態も生じさせましたが、関係機関の協力を得て急遽種苗を搬入し、中間育成をやり直したのでした。事故後現地では、水位などで突発的な異常があった場合も考慮に入れた飼育管理と警備体制の改善策が立てられてきており、中間育成技術に関しては基本的には確立期に入っていると考えられます。

 

年度種苗搬入数尾生産機関大きさ
ミリメートル
中間育成
開始尾数
中間育成
終了尾数
生残率
(パーセント)
平成4年106栽培センター 10696 
5年1,367栽培センター32.41,3671,29394.6
7年1,174栽培センター33.41,1741,07491.5
8年2,626日栽協厚岸24.42,62670927.0
9年2,997日栽協厚岸47.82,8252,41384.5
10年2,648日栽協厚岸47.82,64800
1,475栽培センター74.0━┓
━┛
1,91189.9
650日栽協厚岸124.0  
表1 網走市水産科学センターでのマツカワ中間育成結果

成績が上昇中の放流再捕結果

  中間育成終了後のマツカワは、眼位異常魚を除き全数に標識を付けて海域に放流されてきました。表 2に各年の放流数と再補された数、再捕報告率(以降、再捕率と略称)を示しました。これでみると、放流を繰り返していく内に、再捕報告が多くなり、再捕率も高くなって来ているように思えます。放流日がそれぞれの年で異なっていますし、放流海域も93群(ここでは生産された西暦年で呼ぶこととします)は能取湖内、95群と96群は網走湾藻琴沖、97群は斜里沖でした。そこで、放流日から1年以内の採捕数と再捕率で比較してみますと93群、95群、96群、97群の採捕数はそれぞれ16尾、58尾、105尾、81尾で、再捕率は1.6パーセント、6.7パーセント、24.4パーセント、3.8パーセントでした。やはり、越冬飼育して放流した97群が抜群の再捕率であることは変わりませんでした。


 

放流群名放流数放流サイズ放流月再捕数再捕報告率
(パーセント)
93群98512393.11282.8
95群86514995.1210011.6
96群47219397.715132.0
97群2,12313897.11934.4
98群1,55212298.1200
表2 網走海域でのマツカワの再捕報告結果(1999年1月末現在)


  これらのことから、放流種苗の質や放流場所は各年別々ではありますが、放流サイズをスパゲッティ型標識が可能な全長120ミリメートル以上としている中でのサイズ別再捕率を考えますと、サイズが大きいほど、1年以内の再捕率も良いことが明らかです。特に、96群は中間育成成績では最低の生残率の群であったにもかかわらず、再捕率では最高の値を示しています。これは、放流サイズが193ミリメートルであったこと、越冬飼育後の7月に放流したことの他に、生き残ったものの内、3割近くの眼位異常などの個体を処分し、健康で正常な個体を他の放流群の時よりも厳しく選別したことにもよるのではないかと推察されました。

  次回には、これらのマツカワがどの様な海域で再捕され、どの様な成長をしているのか、この海域でのマツカワ栽培漁業の今後は?といったことについて、紹介しようと思います。

 

(網走水試 資源増殖部主任研究員 川真田憲治)