水産研究本部

試験研究は今 No.376「天然リシリコンブの減産を考える」(1999年3月5日)

天然リシリコンブの減産を考える

  本紙341号で、「利尻島における磯根漁業の変貌」と題して、ウニ類とコンブの減産傾向を紹介しました。今回は天然リシリコンブ減産原因の一つと考えられる水温について検討した結果の一部を報告します。

  北海道で採れる産業的規模のコンブとしては、道南のマコンブ、日高のミツイシコンブ、道東のナガコンブ、羅臼のオニコンブ、道北のリシリコンブの5種があります。この中でリシリコンブは最も減産傾向が強く、図1に示しましたように、主生産地である利尻島、礼文島、稚内の昭和11年から平成8年の生産量にもとづく傾向線は右下がりとなっています。なかでも利尻島は最も急速に減産しています。
    • 図1
  利尻(鴛泊・沓形・仙法志)と稚内の4地点での最近10年間の水温を比較してみますと、図2のように減産傾向が緩やかな稚内は利尻に比較すると1~3月の水温が低いことが特徴です。
    • 図2
  「他のコンブ生産地の1~3月の平均水温はどのくらいなのでしょうか?」
    平成6~8年の平均で、マコンブの中心地である臼尻では3.5度、ミツイシコンブのえりも町では1.1度、ナガコンブの厚岸では0.0度、オニコンブの羅臼では0.9度でした。沓形は4.6度ですので、この時期の水温は利尻が最も高かったといえます。

「冬の水温が低いとコンブの生産にどういう影響があるのでしょうか?」
  鴛泊、沓形、仙法志の3ヵ所の月平均水温と各漁業協同組合のコンブ生産量との間に何らかの関係があるか、統計的に検討を行ってみました。紙面の関係で詳細は省略しますが、1~3月の水温が低いと、3組合とも次の年のコンブ生産量が多くなる傾向がみられました。

「昔コンブが多かった頃は、1~3月の水温が低かったのでしょうか?」
  沓形観測所の資料によりますと、昭和20年から39年までのこの間の水温は平均3.6度でした。これに対して最近10年間の水温のへだたりを図3に示しました。平成7年以外はすべて高く経過し、この間は利尻島でも磯焼けが拡大したと聞いています。
    • 図3
  昭和20年から39年のコンブの平均生産量は1,370トンでしたが、昭和63~平成7年の平均生産量はわずか96トンでした。平成7年には流氷が利尻島の近くにまでやって来て、1~3月の水温が低かったため、次の平成8年のコンブ生産量は739トンでした。

  利尻島にはここを北限とする海藻(ワカメなど)や南限とする海藻(エゾイシゲなど)もあり、利尻島は寒暖の境目になっているようです。

  このように水温と海藻の生育とは関係が深いようです。コンブの減産原因は水温のほかにもいろいろ考えられますので、今後さらに検討を重ねて行く予定です。

  なお、自然現象に対して人間は非常に無力の存在では有りますが、磯掃除やウニ類の移殖管理などを行うことによって、少しでもコンブ漁業の生産性を向上させていくことも重要であると考えています。

(稚内水試 資源増殖部 名畑進一)