水産研究本部

試験研究は今 No.381「マダラ人工種苗放流試験」(1999年4月16日)

マダラ人工種苗放流試験

  マダラの人工孵化放流は、石川県・富山県で1943年から試みられておりました(藤田:1998)。その後の歴史や本事業の詳細については、本誌No.244号に以下のとおり報告されております。

  マダラ種苗生産技術の開発は、1972年石川県で開始され、1979年からは青森県の脇ノ沢漁協で漁業者による受精卵の放流が実施された。1980年代には青森県、日本栽培漁業協会能登島事業場でも種苗の生産技術開発が開始されました。

  北海道では、1987年から知内、恵山、木古内、木直で受精卵の放流事業が実施された。

  1995年栽培センターと函館水試では水産指導所や恵山町の「海を育てる会」の協力を得ながら、マダラの種苗生産・中間育成・放流技術開発を目的とした国の補助事業として開始しました。

  ここでは4年間の成果とマダラ放流試験で残されている課題について検討してみました。

  高緯度の冷水域に生息するマダラの成熟や産卵には短日処理が極めて有効であり、仔稚魚に栄養強化ワムシを給餌することによって、放流時体長12センチメートルの種苗を生産する技術がほぼ確立されました。

  しかし、高密飼育などにより発生が心配される病気の防除や、約2カ月の中間育成では、とくに共食いの防止策(栽培センター)、また、放流の項で述べる、種苗としての有効性などについて、さらに時間をかけて検討する必要があります。

  放流技術では、小型魚に適した体外標識方法の開発を重点課題として縫合糸(シルク、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル)リボンタッグ、アンカータッグ、ワイヤータッグの標識装着試験に取り組み、以下の結果が得られております。

  体長8センチメートル以下の種苗では、いずれの標識も装着が困難で、かつ、装着直後の脱落が多かった。一方、リボンタッグを装着した体長16センチメートル以上の種苗では、脱落が見られず、有望であることがわかりました。

  今回の試験では表1に示したとおり、多くの種苗が背鰭を切除して放流されております。鰭を切除すると、切除した鰭が再生してきますが、再生した鰭は、通常の鰭と識別が可能であるため、放流種苗の体長が10センチメートル前後の現状においては、もっとも実用的な標識方法と考えられます。

 

年月日場所
水深:メートル
尾数全長
:センチメートル
標識方法
19936.28山背泊7129.4背鰭切除
  水深55709  
19946.24山背泊4,4757.7リボン緑
   13,331  
19956.19山背泊9777.8リボン黄
   8,4847.7 
19966.20山背泊8787.6リボン青
   2,233  
 10.21山背泊12817.1スパゲッティ
   345 アンカー
   16 ダート
   374  
19976.21山背泊9186.9背鰭切除
   2,936  
 11.19日浦2,83115.7背鰭切除
  水深60   
19986.19山背泊5496.4背鰭切除
   2,187  
   3519.2背鰭切除
  女那川6,2005.9 
表1 マダラ放流実績


  問題は、操業中の再捕時や荷捌作業中に背鰭に異常がある個体を発見するのが、かなり難しいことです。
鰭に異常が見られるタラの、発見には、いっそうの、ご協力をお願いします。
ところで、漁業者の皆さんはマダラの来遊時期、漁場はよく知っており、私たちも市場、魚屋で大きなマダラは見慣れておりますが、これらのタラはどこで生まれ、どこで育ったのでしょうか?

  人工種苗を放流する場所や時期が適切であれば、より多くの再捕が期待できることは、サケの例をあげるまでもありません。
  
  中間育成(共食い)の項で述べたとおり、小さいタラは大きいタラが沢山獲れる優良漁場とは異なる場所で生活していると考えておりますが、幼魚期の発見事例の報告がきわめて少ないため、放流適地を選定するのに大きな障害となっております。このように小さいタラをみつけることは、種苗放流試験を行うにあたって大変貴重なデータとなります。
  
  小さいタラに関する情報が、表2のように蓄積されつつあります。

 

 全長
(センチメートル)
時期漁場漁具・漁法
※1約106月下旬 種苗生産施設
※2約1512月頃 中間育成施設
     
116.41月10日鹿部スケソ刺し網
224.03月11日恵山タラ延縄
324.03月17日椴法華エビ篭
427.610月6日恵山タラ延縄
528.111月23日江差スケソ刺し網
629.012月22日恵山タラ延縄
※1:量産される人工種苗
※2:技術開発中の越夏種苗
表2 小さいタラの飼育・採集記録


  この事業を進めるためには※1の体長10センチメートル前後のマダラが6月頃に 生息する場所の情報がどうしても必要だと思います。
  
  体長12から13センチメートルの幼魚が、9月に水深40メートル(水温11度)の所で採集されている(上田:1986)ので、次善の策としては、12月頃に、※2の15センチメートル越夏種苗を噴火湾の適地に放流してみることも一案かと思っております。
  
  関係者のみなさん小さいタラを見つけたら、ぜひ連絡して下さい。

 

(函館水試資源増殖部門間春博)