水産研究本部

試験研究は今 No.382「迷子になったマガレイの行方はいかに~」(1999年4月23日)

試験研究は今 No.382「迷子になったマガレイの行方はいかに?」(1999年4月23日)

迷子になったマガレイの行方はいかに?

 サケが産卵のために自分が生まれ育った河川に帰ってくること(母川回帰)はよく知られていますが、マガレイの場合、いったいどの程度、自分の産卵場を認識しているのでしょうか?特定の産卵場を選択的に利用しているのでしょうか?

中央水産試験場では、マガレイの移動回遊、特に産卵場の識別能力や回帰能力がどの程度であるかを調べることを目的に、昨年5月11~15日に日本海海域において試験調査船おやしお丸によるマガレイ標識放流調査を実施しました。今回の調査では、「産卵場で採集した魚を同じ場所で放流した場合、どのような移動をし、翌年以降の産卵期にどの海域へ現れるのか?」、あるいは「採集した魚を採集した場所から別の場所へ輸送して放流した場合、どのような移動をし、翌年以降の産卵期にどの海域に出現するのか?」を調べることで、産卵回帰性を検討することにしました。

具体的には次の4つの放流実験を行いました。
【現地放流】
(1)鬼鹿沖で採集した魚を鬼鹿沖で放流
(2)忍路沖で採集した魚を忍路沖で放流
【輸送放流】
(3)忍路沖で採集した魚を鬼鹿沖で放流
(4)鬼鹿沖で採集した魚を忍路沖で放流

放流魚の採集はすべて釣りによって行いました。採集魚の体長および全長を測定した後、腹部を押さえて雌雄を判定し、スパゲッティ型のアンカータグを装着しました。標識を装着した魚はデッキに設置した1.1トンの円形水槽に蓄養し、流水をかけ流した状態で放流海域まで輸送しました。放流は標識魚へのダメージをできるだけ少なくするため、船側に斜めにとりつけた塩化ビニルの筒の中に海水を流し、海水といっしょに標識魚を海中に(流しそうめんのように)流し込む方法で行いました(写真1)。
    • 写真1

      船側からマガレイを放流する。矢印の部分にパイプが取り付けられている。

  調査では両海域合わせて1,099個体のマガレイを放流しました。放流魚の大部分は雄個体で(87パーセント)、ほとんどが放精できる状態にありました。また、体長組成のモードは16~17センチメートル台に見られました。

  放流調査の結果、これまでに(平成11年3月末現在)計9個体が再捕され、いずれも2ヶ月以内の短期再捕でした(図1)。放流魚の短期的な移動状況をみると、現地放流群で再捕されたものはわずか1個体で、鬼鹿沖で採集し鬼鹿沖で放流したものが放流32日後に初山別沖で再捕されています。一方、輸送放流群は、忍路沖放流群、鬼鹿沖放流群ともに4個体ずつ再捕されています。
    • 図1 マガレイ標識放流再捕結果

      星印は放流点、数字は経過日数を示す。(実線:輸送放流個体、点線:現地放流個体)

  標識魚の再捕位置をみると、現地放流群・輸送放流群ともに海岸線に沿って北上あるいは東進していることが特徴です。このように、少なくとも放流魚は元いた海域にすぐに戻るのではないことから、強い回帰性は期待できないかもしれません。しかし、一旦大きく北上した個体が翌年の産卵期に元の産卵場へ戻る可能性も考えられることから、産卵場への回帰性を評価するためには、今年の産卵期以降の再捕結果を待たなければなりません。

  標識魚が再捕された場所と時期(5/29~6/24)から判断して、マガレイは産卵終了後に北上回遊をしているのではないかと考えられますが、再捕個体の生殖巣のデータが得られておらず、再捕個体が産卵を終えたものであったかどうかはわかりません。今後、産卵の終了と北上との関係を検討するためには、再捕魚の生殖巣のデータの収集が必要となります。

  今回の調査で、もっとも大きく移動した個体は、忍路沖から手塩沖まで直線距離で約190キロをわずか19日間で移動しており、マガレイの移動能力はかなり高いことが明らかになりました。

  さて、今年もマガレイ漁が最盛期を迎えようとしております。標識魚が産卵期にどの海域に再び出現するのか、最も注目されるところです。水産試験場では関係機関にポスターを配布するなどして再捕報告をお願いしております。ささやかな記念品も用意しておりますので、標識のついたマガレイを捕獲された方は、ぜひ最寄りの水産試験場・水産技術普及指導所・漁協までご連絡下さいますようお願いします。その際、産卵と北上の関係などを調べるためには、位置情報に加えて再捕魚の成熟度などの情報も必要になってきますので、できましたら再捕魚をご提供していただければ、幸いです。

(中央水試 資源管理部 前田圭司)