水産研究本部

試験研究は今 No.386「早生まれのマダラは大きいぞ!-マダラの早期採卵技術の開発-」(1999年6月4日)

早生まれのマダラは大きいぞ! マダラの早期採卵技術の開発

年の瀬は忙しい

  マダラは低水温でも成長が良く,津軽海峡沿岸等から本種の種苗放流に対する強い要望があるため,栽培センターでは平成6年から人工種苗生産の技術開発に取り組んできました。

  マダラの産卵期は冬で,道南の恵山から鹿部では12月から2月に産卵群が接岸してきます。栽培センターでは地元の漁業協同組合にお願いして,これらの親魚を生きたまま搬入し,採卵まで蓄養しています。12月に搬入した親魚が採卵適期になるのは,例年大晦日前後ですので,マダラ担当者にとっての年末はエキサイティング・シーズンの始まりです。

放流時期のタイムリミット

  12月に良質の受精卵を得ることができれば,5月中旬まで栽培センターで種苗が育成され,さらに,1カ月間の海中中間育成を経て,全長が5~6センチメートルになってから放流されることになります。というのは,マダラ稚魚の生息水温は15度が限界ですので,道南では海水温が15度となる6月までに種苗を放流しなければならないからです。

放流種苗の行方を知りたい!

  このようにして,放流されたマダラ種苗は,どこを回遊し,どのように成長するのでしょうか?放流種苗を追跡することによって,栽培漁業の推進だけでなく,資源や生態を解明するうえでも,貴重な情報が得られます。道南から放流される人工種苗の一部は,背鰭がカットされていますが,残念ながら現在までに再捕された報告はありません。この原因として,放流数が少ない(一万尾前後)ことと,背鰭カットによる標識では発見率が低いことが考えられます。6月の放流時点ではまだ魚体が小さいため,外部標識が付けられません。ですから,より大きな種苗を作りたいのですが,産卵期と放流時期という二つの制約があるので,それは困難です。

  日本栽培漁業協会は深層水を利用して育成した1歳魚に外部標識を取り付け,放流魚の追跡に成功しています。施設の老朽化と豊富な冷海水に恵まれない栽培センターでは,このようなことはできません。そこで,外部標識を取り付けることのできる大型種苗を育成するため,早期採卵を試みました。

日照時間のコントロールで早期採卵に成功!

  ヨーロッパにおける大西洋タラの養殖では1年の光周期を制御して,産卵時期をコントロールしています。マダラにおいても光周期が成熟に影響を及ぼすことが考えられるため,光周期制御による早期採卵試験を行いました。

  1997年に搬入した親魚を,3つの光周期で次の産卵まで飼育しました。図1には光周期を示してあります。A区は人工照明によって,2パターンの光周期を設定しました。すなわち,1998年2月1日から7月31日までは1日の明時間を16時間,暗時間を8時間にし,8月1日以後はこの逆で,1日の明時間を8時間,暗時間を16時間としました。B区は人工照明によって1年間の光周期を2月1日から段階的に9カ月間に短縮しました。C区は自然日長で,A区とB区の対照区としました。

  図2には卵巣卵を摘出して,卵径を計測した結果を示しています。マダラの卵巣卵は成熟にともなってしだいに卵径が大きくなり,卵径1ミリメートルで高い受精能を持つことが分かっています。
    • 図1
    • 図2
 そこで,平均卵径が1ミリメートルに達した時点で搾出により採卵し,人工受精を行いました。最初の採卵はA区で,11月10日に採卵し,人工受精を行ったところ100パーセントの受精率を得ることができました。B区の採卵はA区よりも10~26日遅れ,11月19日と11月25日に人工受精を行いました。受精率はA区と同様に高率で,92パーセントと98パーセントでした。自然日長のC区での採卵は,A区よりも約3カ月遅れ,年が明けた2月5日に人工受精を行いました。受精率は94パーセントでした。

これらの結果から,マダラの成熟に光周期が強い影響を及ぼしていることがわかりました。また,光周期を短くすることにより,産卵を早めることがほぼ明らかとなり,とりわけ,長日から短日への急激な変化が,早期採卵に有効なことがわかりました。

やはり大きい早生まれのマダラ

  A区の11月10日に得られた受精卵から種苗を育成し,例年よりも1ヶ月早い4月20日に平均全長3.8センチメートルの12,000尾の種苗を中間育成場に配布しました。5月26日に測定を行ったところ,平均全長はすでに6.9センチメートルに達しており,6月中旬の放流までには,この中の大きい個体(トビ)に外部標識を取り付けることができると期待しています。

  本年度も引き続き,早期採卵試験を継続し,産卵時期をコントロールする要因を明らかにしたいと考えています。

(栽培センター 魚類部 横山信一)