水産研究本部

試験研究は今 No.396「クローンヒラメの偽雄精子を永久保存」(1999年9月3日)

「クローンヒラメの偽雄精子を永久保存」

クローンヒラメの作り方

  中央水産試験場では平成9年度から、「染色体操作によるヒラメ・カレイ類の性統御とクローン魚作出試験」を実施しています。平成9年度に本道でははじめて、クローンヒラメを作出しました。クローンヒラメを作るには、まず紫外線処理で遺伝子を働かなくした精子を卵に受精させて、最初の細胞分裂を抑制することによって、2倍体にした魚を作ります。その子供を親になるまで育てて卵を採り、再び同じ操作を行うことにより作出されます。したがって、クローンヒラメは遺伝的にすべて雌になります。

偽雄クローン

写真1,2
  平成9年度に作出したクローンヒラメの一部の魚に、雄性ホルモンを与えて雄にしました。これをニセオス(偽雄)といいます。遺伝的には雌なのに、通常の雄と同様にりっぱ(?)な精子を作ります。その偽雄が今年成熟しましたので、さっそく精子を採りました(写真1、2)。

  偽雄クローンを作りますと、雌のクローン魚と普通に交配するだけでクローンが出来ます。クローン系統を効率よく維持するために、偽雄クローンを作ることは不可欠の技術です。しかし毎回偽雄を作るのは、手間の掛かる作業です。

クローン系統の保存

  一度作出された優良な形質を持ったクローン系統を、途絶えることなく保存しておくことが重要です。数多くの系統を何世代にも渡って継代飼育することは、施設やコストの面、あるいは事故等により系統が消失する危険性もあり困難です。現在受精卵を丸ごと保存することは、技術的に確立されておりません。しかし精子の場合は凍結して長期間、ほとんど半永久的に保存が可能に成っており、畜産分野では既に実用化されています。液体窒素(-196度)を用いた凍結保存法ですと、ウシの凍結精子では、30年以上活性を失わなかったそうです。

精子の長期保存

写真3,4
  数年前に「ヒラメ・カレイ類の精液の長期保存法」について検討しました。精液をリンゲル液等で希釈した後、プラスチック製のストローに封入(写真3)して凍結するか、あるいはドライアイス(-80度)上で球状に凍らせた(写真4)後、液体窒素中に保存することで、解凍後にかなり高い精子活性が得られました。

  今回行ったクローンヒラメの偽雄精子を用いた長期保存法でも、リンゲル液と凍結保護剤の混合液で5倍希釈した精液を、ストロー法又はペレット法で液体窒素中に凍結保存しました。その精子を解凍し、未受精卵に媒精後孵化率を調べました。表に示しましたように、1グラムのクローンヒラメ未受精卵に、ストロー1本又はペレット1個(希釈精液0.25ミリリットル)分の精液を受精に使用しましたところ、ストロー法、ペレット法ともに孵化率に若干ばらつきはありますが、クローン系統の保存には充分使用出来る結果が得られました。この様にクローン魚の精子を、活性を保った状態で保存しておけば、必要な時にあるクローン系統を復活させたり、あるいはクローン同士を交配(ヘテロ型クローン)させることも可能です。

クローンヒラメの利用

  クローンヒラメを養殖に利用することはもちろんです。しかしそれだけでなく、遺伝的に均質なクローンは、増養殖研究における「実験魚」としても非常に利用価値の高いものです。凍結保存された偽雄精子が、今後益々有効活用されることを期待しています。

(中央水産試験場 資源増殖部 齊藤節雄)