水産研究本部

試験研究は今 No.391「道東海域におけるイワシ・サバ類のモニタリング調査と来遊状況」(1999年7月9日)

道東海域におけるイワシ・サバ類のモニタリング調査と来遊状況

1.はじめに

  近年の道東海域では、マイワシ資源が減少してからまき網漁業の操業がしばらくありませんでした。しかし、昨年はまき網船団が数年ぶりに操業を行ってカタクチイワシを約3万トン水揚げし、港は活気にあふれたという明るい話題がありました。

  そこで、道東海域におけるまき網漁業の漁獲対象となるイワシ・サバ類のモニタリング調査と来遊状況について紹介します。

2.道東のまき網漁業と対象資源

  道東海域のまき網漁業は、昭和34(1959)年にマサバを対象として始まりましたが、昭和51(1976)年からは対象魚種がマイワシに替わり、カタクチイワシは平成2(1990)年から漁獲されています(図1)。
    • 図1
  また、まき網漁業が始まってから漁獲量は増加を続け、昭和49(1974)にはマサバが29万トン、昭和58~63(1983~88)年にはマイワシが100万トン以上漁獲されました。しかし、その後漁獲量は減少し、平成2~4(1990~92)年のカタクチイワシの漁獲量は1万トン前後で、平成7~9(1995~97)年はまき網による水揚げはありませんでした。

  このように、道東海域におけるまき網漁業が対象とする資源は、魚種の入れ替わりが見られたり、漁獲量の変動が大きいという特徴があります。また、まき網漁業と関連する産業の幅が広いことから、これらの経営安定のためには、イワシ・サバ類の的確な資源評価と漁況予測が重要となっています。
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3.資源評価と漁況予測の資料

  資源評価や漁況予測を行う上で、重要な資料となっているのは、漁獲量をはじめとする漁業情報です。道東海域で漁獲対象となるイワシ・サバ類は、太平洋の黒潮域から親潮域に分布し、南から北までの広い海域で漁獲対象となっていることから、分布海域全体における漁獲量が資源評価や漁況予測の主要な資料となっています。

4.資源のモニタリング

  ところが、イワシ・サバ類は資源水準の変化とともに分布域が変化し、低水準期には分布の北限が南寄りになります。したがって、分布の北限域である道東海域では、資源低水準期に漁業が行われないため、漁業情報が得られなくなります。

  このように、漁業情報だけに頼っていたのでは、資源低水準期における来遊状況や資源状態が把握できません。そこで、釧路水産試験場では、道東海域周辺におけるイワシ・サバ類の来遊状況や資源状態を明らかにするため、調査船北辰丸によって資源のモニタリング調査を行っています。調査の方法は、流し網や釣りによる漁獲試験が主体で、そのほかに計量魚探調査や海洋観測を実施しています。

5.流し網調査によるCPUE

  北辰丸による流し網の操業は年間30~40回程度実施していますが、1回当りの採集尾数をCPUEとし、1982年以降のCPUEの経年変化を図2に示しました。
    • 図2
  図2から、近年におけるマサバ、マイワシ、カタクチイワシの来遊量水準の推移が推定されます。マサバのCPUEは1990~91年が最低の水準でしたが、その後増加して変動しています。マイワシは1990年代に入ってから低水準で推移しています。カタクチワシは1990年代に入って増加し、減少傾向も見られましたが1998年は大きく増加しました。これらのCPUEから推定される来遊量水準は、各魚種の資源水準を反映していると思われます。

  このように、調査船によるモニタリング調査を行うことによって、漁業情報が得られない海域・時期における資源の状態を把握することが可能になります。

(釧路水産試験場資源管理部 中明幸広)