水産研究本部

試験研究は今 No.392「水産煮熟加工品の塩分均一化システムの開発について」(1999年7月16日)

水産煮熟加工品の塩分均一化システムの開発について

  平成10年度の関連機関支援強化事業(通産省補助)の中で、網走水試紋別支場では「水産煮熟加工品の塩分均一化システムの開発」を実施しました。

  網走~紋別地域ではカニ、タコ等の煮熟加工品いわゆるゆで物と、煮熟が製造工程のひとつとなっている乾ほたて貝柱は、重要な加工品目となっています。これらの煮熟工程では煮熟液の塩分濃度、煮熟時間、温度などの調整が重要です。しかし、この調整は経験と勘に頼っており、各工場の製品品質のバラツキが大きくなっています。このため、このバラツキを少しでも小さくするための一方法として、煮熟後に変化した塩分濃度、煮熟液量を煮熟前の状態に自動的に戻すシステムを試作しました。ここでは、ホタテガイについて行った試験結果を紹介します。

1.システム装置について

  このシステム装置は大きく分けて(1)水産物を煮る煮熟槽(熱源は電気ヒーター)、(2)煮熟液の塩分を計測する塩分計測部、(3)計測データをもとに演算を行い、煮熟槽へ高濃度水(20パーセント)および水道水を所定量注入することにより、煮熟液の塩分濃度、液量を煮熟前の状態に戻す制御部の3つからなっています(写真)。煮熟槽には液面計が設置してあり、煮熟後の液量を計測することができます。また、液体の塩分濃度を測定する方法としてはイオン電極法、銀滴定法、近赤外法などいくつか選択肢がありますが、計測の迅速性、コストの低さ、メンテナンスの簡便性などから、本システムの塩分計測部には電導度計を採用しました。一般に水産物の煮熟液にはアミノ酸、高分子化合物などが含まれており、これらは電導度計で塩分濃度を測定する際、妨害物質となることが知られています。このため計測の際、煮熟液を水道水で希釈することによって測定誤差をなるべく小さくする工夫をしました。
    • 塩分均一化システム装置

2.試験の方法と結果

  煮熟槽で30リットルの9パーセント食塩水を沸騰させ、一番煮熟後のホタテガイ貝柱(Sサイズ)約3キログラムを投入しました。10分間煮熟した後、貝柱を引き上げ、システムによって液量塩分濃度を計測するとともに、煮熟前の状態に自動的に復帰させました。これを繰り返し、システムによって合計10回の煮熟を行いました。煮熟後、煮熟液の塩分濃度を硝酸銀滴定法により測定しました。10回の煮熟では、復帰後の煮熟液の塩分濃度は8.5~9.5パーセントの範囲に入っていました(図1)。次に煮熟後の貝柱を水分含量が16パーセントになるまで、送風械乾燥を用いて乾燥したところ、貝柱の塩分濃度は、ほぼ6パーセントにそろっており、塩分の均一な乾ほたて貝柱を製造することができました(図2)。
    • 図1,2
  しかし、このシステムは計測から復帰まで毎回5~10分程度要し、この待ち時間をいかに短縮するかという課題が残りました。さらに、高濃度タンクに蓄えられる食塩水濃度は20パーセントに限定されているため、高濃度の食塩水を正確な濃度で大量に調製する必要があります。このような使い勝手の向上が必須ですが、今後、製品品質の均一化をはかるためには、熟練した従業員の経験と勘に少なからず頼ってきた水産加工にこうようなシステムの導入を考えていく必要があると思われます。

(網走水産試験場紋別支場 成田正直)