水産研究本部

試験研究は今 No.397「水温上昇とホタテガイの産卵」(1999年9月10日)

水温上昇とホタテガイの産卵

  噴火湾ではホタテガイの付着稚貝数が少ないことから、稚貝を他海域から購入せざるを得ない状況が過去数回おこりました。付着稚貝数が少なかった年に共通していた現象は、産卵期が例年に比べ約1ヶ月も遅い5月下旬から6月上旬にあったことでした。産卵期が遅れた場合、その後の卵の発生率は低下すると言われています。したがって、噴火湾の付着稚貝数の減少は「産卵期の遅れによる浮遊幼生数の少なさ」が一因と思われます。

  ホタテガイの産卵を誘発する刺激の1つとして、水温上昇が考えられていますので、現場におけるホタテガイの産卵と水温上昇との関係を調べてみました。

  平成7年の八雲の場合をみると(図1)、生殖巣指数の大きな低下は、5月中旬の4度から8度の水温上昇時に起こっていました。平成10年の森の場合(図2)では、5月中旬からの4度から10度の水温上昇が刺激となり、生殖巣指数値は低下しているようにみうけられます。
    • 図1
    • 図2
  このように、生殖巣指数の大きな低下は、両年ともに、水温の大きな上昇と関係がありそうです。そこで、水温上昇がホタテガイの産卵に有効に作用するかを検証するため、水温の上昇幅をいろいろと変えて産卵を誘発させる室内実験を行いました。

  産卵誘発は、3月下旬から4月上旬にかけて、あらかじめ実験区の水温に設定した水槽にホタテガイを移し行いました。

  実験に用いたホタテガイは、平成11年3月10日または24日に虻田町から採集した養殖ホタテガイです。誘発開始までは4度の海水をかけ流し飼育しました。

  産卵誘発に用いたホタテガイの個体数は各実験区とも5個体です。3月10日の生殖巣指数値は約25(30個体平均)であり、試験に用いたホタテガイの大部分は成熟状態にあったと考えられます。

  ホタテガイの産卵は、水温上昇幅が3~5度区ではみられませんでしたが、6度区では、誘発開始から3時間後に全個体の産卵が認められました(表1)。
    • 表1
  誘発開始から13時間後の産卵数(5個体平均)は630万個でした。この卵数は、1個体の生殖巣指数値が5低下する量に相当すると試算され、産卵規模は大きいと思われました。

  水温上昇幅6度区で産卵がみられたのは、10度という高い温度が刺激になった可能性があります。そこで、誘発開始の5日前からホタテガイを7度の水温に馴致させ、産卵誘発水温を10度にする試験を行いました。しかし、産卵は全く認められませんでした(表1)。したがって、本実験において産卵が認められたのは、水温上昇幅に起因していたものと考えられます。

  この実験は、例年の産卵盛期よりも1ヶ月程度早い時期に行っております。それにも関わらず、水温上昇幅6度区のホタテガイは産卵しました。したがって、水温上昇は、ホタテガイの産卵を誘発させる有効な刺激であることがわかりました。

  ところで、森の産卵と水温上昇との関係をみると、5月上旬には4度から8度の水温上昇がありましたが、生殖巣指数値は大きく低下しませんでした。確かに水温上昇はホタテガイの産卵を誘発させる刺激ではありますが、ホタテガイは、水温上昇以外にもいろいろな環境変動の影響を受けて産卵すると思われます。今後は、室内実験、環境調査などを通じて、他の環境要因も取り入れ、ホタテガイの産卵を有効に誘発できる水温条件を明らかにしていきたいと思います。

(函館水試室蘭支場 西田芳則)