水産研究本部

試験研究は今 No.398「風蓮湖産ニシンの現況(明日の豊漁を目指して)」(1999年9月17日)

風蓮湖産ニシンの現況(明日の豊漁を目指して)

「風蓮湖産ニシンって?」

  北海道東部に、根室湾に湖口を開く周囲96キロメートルの低塩水湖、風蓮湖があります。この湖に訪れる湖沼性ニシン「風蓮湖系群」は11月頃から風蓮湖に来遊し始め、3~4月に同湖で産卵します。風蓮湖でふ化した稚魚は7~8月に湖外へ旅立ち、翌年秋には親魚として風蓮湖に戻ってくるのです。

  風蓮湖では1982年から人工種苗放流が行われており、すばらしい回収率を収めています。風蓮湖でのニシンの生態等については「北水試だより第44号」で詳細に紹介されています。

「風蓮湖産ニシン、最近の漁獲量」

  別海および根室湾中部漁協では風蓮湖でのニシン漁を11月から翌年6月まで行っており、ニシン漁獲量の約9割が同湖でのものです。図1に近年の両漁協におけるニシン漁獲量の経年変化を漁期単位で示しました。
    • 図1
 漁獲量は1991~1992年漁期(以降91-92とします)から94-95には200~400トンの間を増減し、95-96に556トン、96-97には705トンにまで増えましたが、97-98に170トン、98-99にはさらに減少して27トンになりました。

何故、700トンもの漁獲量が27トンにまで減少したのでしょう。また、1980年以前には数トンの漁獲量しかなかった風蓮湖産ニシンは何故700トンにまで増えたのでしょうか。その答えは未だ出ていません。言えることは、風蓮湖産ニシンの資源変動は非常に激しいということだけです。漁獲量は減少しましたが、この風蓮湖産ニシン、悪いニュースばかりではありません。

「好成績、ニシン人工種苗放流」

  風蓮湖で放流された人工種苗の回収率を表1に示しました。風蓮湖で漁獲されるニシンの年齢構成は2歳魚が6割強、3歳魚が3割、4歳魚が1割以下で5歳魚以上はごくわずかなので、2~4歳のデータで累積回収率を算出します。1998年4月までの結果を示した表1の累積回収率は、1993、1994年級群の数値は確定値ですが、再捕の可能性がある1995、1996年級群の数値は今後上がるものと思われます。

  累積回収率の数値は年級群毎に異なりますが、人工種苗放流結果としてはいずれも非常に高い値です。今後もこれまでと同様の高い回収率が見込めるとすれば、仮にニシン人工種苗を毎年100万尾放流したとすると、人工種苗の漁獲量が毎年10トン程度は期待できるでしょう。10トンでは少ない?・・・1980年以前の漁獲量と同程度かそれ以上の数値なのですが・・・。放流事業に直接的な経済性を求めることは当然ですが、種苗放流には資源回復のための「きっかけ」となるニシンの個体数を維持するといった側面のあることも忘れないで下さい。そして、今、来年度からのニシン人工種苗生産を目指して、新しい種苗生産施設が別海町に造られているところです。
    • 表1

「増えたニシン当歳魚」

  水試が風蓮湖で行っている曳網調査では体長4センチメートル以上のニシン当歳魚が主に採集されます。当歳魚は7月下旬から8月には風蓮湖外へ出ると考えられていますので、表2では6~7月のデータを示しました。
    • 表2
  ニシン当歳魚は1996年には数尾、1997年には1尾しか採集されていません。両年は500~700トンと最高の漁獲量を記録し、産卵親魚が大量に来遊したはずなのですが・・・しかし、1998年には6月に51尾、7月に87尾、1999年には6月に145尾、7月に92尾と、1996、1997年を大幅に上回る当歳魚が採集されました。また、1998年11月には体長10数センチメートルの「小ニシン」が風蓮湖に大量に来遊して待網の投網を半月程遅らせています。

  1998年生れのニシンは今年の秋には親魚として風蓮湖に帰ってきます。曳網調査の結果はニシン資源の回復を示しているのでしょうか? もし、曳網調査で2年後の漁獲量が予想できるとすれば、なんとうれしいことでしょう。来期の漁獲量に期待は膨らむばかりです。

(釧路水試 資源増殖部 堀井貴司)