水産研究本部

試験研究は今 No.400「かご漁業の見えない「シオムシ」の正体」(1999年10月8日)

かご漁業の見えない敵「シオムシ」の正体

  餌を入れたかごを海底に設置し,餌に誘われかごの中に入ってくる生物を獲るかご漁業。かごを設置した場所には,狙っている漁業資源の他にも様々な生物が生息していますから,当然,かごの中にはたくさんの生物が餌を食べに進入してきます。

  目的物以外の生物は,かご餌を横取りする邪魔者達になるわけですが,その代表格に,「シオムシ」と呼んで私たち研究者や漁業者が嫌う甲殻類がいます。えびかご漁などでは,シオムシが多いところでは不漁となる傾向が知られており,かご漁具の厄介者扱いをされています。

  この「シオムシ」ですが,多くの場合,シオムシという正式な名前を持つ生物のことではなく,小さなヨコエビ類など漁獲対象ではない雑多な小型エビ類をまとめて「シオムシ」と呼んでいるのが実態です。しかし,この「シオムシ」は,漁業で用いられているかごでは網目が大きいために,かごを揚げるとき通り抜けてしまい,大部分は揚がってきません。かご餌を横取りされていることだけは経験的に分かっているのに,その実体は海の奥深くで行方をくらませてしまう,かご漁具の見えない敵なのです。

  そこで、ひとつその姿を見てやろうと、稚内水試の調査船北洋丸では,普通のえびかごの網目の約3分の1という細かい網目のかご(下の写真)を使って採集試験を行ってみました。
    • かご
  今回は,北海道日本海に浮かぶ天売,焼尻島沖合水深270メートル付近の,えびかご漁業の主漁場となっている水域で、スケトウダラをかご餌として採集した標本を分析しました。本当はホッコクアカエビ(あまえび)とトヤマエビ(ぼたんえび)という漁業資源種を狙った調査でしたが,それ以外に揚がってきた小さなエビ類を全部研究室に持ち帰って,分類,測定しました。結果は裏面の図です。

  ホッコクアカエビとトヤマエビの採集率は,甲殻類全体の中で50パーセントに足らず,半分以上は,ホッコクアカエビ,トヤマエビの頭の大きさにも満たないような小さなエビ類で占められていました。このときの道西日本海えびかご漁業の「見えない敵」は,ホッコクアカエビに外観が酷似した偽物=キタツノモエビと,カブトムシの幼虫に似たヨコエビ類が主役となっているようです。
    • グラフ
  今回は甲殻類だけを測定しましたが,通常,大量の小型クモヒトデ,小さな二枚貝,ヤドカリ類なども混獲されてきます。それを考えると,かごに付けた餌の大部分が,実は目当ての生物ではなく,このような「シオムシ」やヒトデなどの餌食となっていることが想像できます。

  海域の違いや海洋環境の変化によって,かご漁業の対象資源種とこれらのような「雑エビ」の組成は大きく変わるため,「横取り率」も変わってきます。対象資源の漁獲状況は,その生物自体の資源量,腹の空き具合,そしてこのような周りの様々な底生生物の状況と密接に関わりながら変化します。資源状況が良いからといって漁が良いとも限りません。これらのことがかご漁業の資源管理を難しくさせる一因となっています。

(稚内水産試験場資源管理部 星野 昇,稚内水産試験場調査船 北洋丸)