水産研究本部

試験研究は今 No.402「小樽深層水の研究スタート」(1999年10月29日)

小樽深層水の研究スタート

はじめに

  海洋深層水が、今にわかに注目を集めています。しかし話題や現象が先行している面が多く、まだわからない点や、科学的には証明されていないことが多いのです。

  道内の動きとしては、平成4年度に、桧山支庁管内各町が組織する「桧山海域プロジェクト協議会」で、奥尻海峡マリノゾーンプログラム調査を行ったのをはじめ、羅臼町では、地域振興策として、平成7年度から、「深層水水質調査」や「シンポジウム」を行っています。また、西積丹深層水クラスター研究会」(会長岩内町長)の水質調査が平成11年から始まっています。

  道としては平成7年度から平成10年度にかけて、日本海で深層水の基礎調査を終え、その上で深層水有効利用の研究開発に取り組むことになりました。その中で、様々な分野での深層水の利活用に関する研究開発により、一次産品の高付加価値化等を図り、本道産業の活性化、更には地域の総合的な振興に資するというものです。

  今年度、8月と9月に小樽沖で採水された深層水は、民間業者、食品加工研究センター、地下資源調査所において、水温、塩分溶存酸素、栄養塩(ケイ酸、リン酸、硝酸、亜硝酸、アンモニウム)、プランクトン等の水質分析を行います。さらに、食品加工研究センターでは、食品分野への利用研究として深層水からの食塩の製造技術と、脱塩した水の利用方法の検討を行います。

  さて、肝心の水産分野への利用の研究は中央水産試験場が受けもちます。大きく3項目あり、深層水による魚介類の鮮度保持効果の検討(加工利用部担当)、海域豊度化に基づく生物生産性の検討(水産工学研究室担当)、飼育培養液としての利用可能性の検討(資源増殖部担当)から成っています。

  これらの研究による成果が得られ次第、ご紹介いたします。

海洋深層水とは

  海洋深層水といっても、一般にはまだ何のことかわからないと思いますので、ここでは、平成10年3月に、北海道総合企画部から出されている、「日本海海域における深層水利用技術の事業化調査報告書」をもとに紹介します。 現在どの深さの水を深層水と呼ぶかは、研究分野によって異なっており、その定義付けは明確ではありません。ここでは、鉛直混合の起こる水深、言い換えれば季節躍層(夏冬などの気温変化により上下の対流が起こる水深帯の下限に形成される層をいう)より上部を表層水、下部を深層水と呼ぶことにします。

表層水と比較した場合の深層水の特性として次のような項目が挙げられます。
  • 低温安定性
    • 低水温であり、かつ水質の変動が小さく、安定している。
  • 富栄養性
    • 光合成藻類の成長に必要な無機栄養塩類、特にリン酸塩、硝酸塩及びけい酸塩に富み、またそれらの組成比が安定している。
  • 清浄性
    • 粒状及び溶存態の有機物濃度が低く、微生物学的に安定している。
    • 魚介類に寄生する寄生虫や付着生物などが少なく、また疾病などを誘発する病原菌や細菌類などが少ない。
    • 有害な重金属や他の人工汚染物質の影響が少ない。

海洋深層水の利用可能性

  次に、深層水の利用動向として、道外の取り組みを紹介します。
高知県の取り組みとしては、生物生産分野では、有用植物プラントや海藻の培養、冷水性生物の飼育、深海性生物の飼育への利用研究。エネルギー分野では、深層水との混合により水温を変える研究、また低温による冷房、脱塩による淡水生産への利用研究。医療分野では、アトピー性皮膚炎の治療に深層水を用いる研究。食品分野では、酒、味噌、醤油等の発酵食品、和菓子、ゼリー等の菓子類、脱塩飲料水、ジュース等の飲料に使用する研究が、高知県工業技術センターや民間企業によって行われ、一部は事業化へ進みつつあります。

  富山県では、冷水性魚介類の親魚生産及び種苗生産など、水産分野における深層水の有効利用についての研究開発が進められています。その他、沖縄県、静岡県、佐賀県など、その研究の輪は、さらに広がりを見せています。

  さて、小樽沖深層水には、どんな特徴があり、どう利用途が広げられるのでしょうか。海へのロマンと、未知なるものへの期待と不安....。今後の研究成果にご期待下さい。
(中央水試加工利用部 臼杵睦夫)