水産研究本部

試験研究は今 No.423「ツブかごの網目選択性について」(2000年5月10日)

ツブかごの網目選択性について

  道東のツブかご漁業者にとって、トウダイツブは大切な漁獲対象資源であり、操業期間・漁具数などの許可制限や選別機の導入による漁獲サイズ自主規制などの資源管理を行っています。

  しかし、近年は資源量の減少が著しく、漁業者から生物学的知見などに基づく資源管理を望む声が強まっています。そこで、この要望を受け平成9年から3年計画で、資源管理手法開発に向けて、漁獲対象となっているつぶ類の分類並びに生態学的知見を収集するための調査を行い、産卵期、成熟殻長サイズ、分布移動状況などを明らかにしてきました。

  一方、平成11年度の研究評価会議において、この事業については「貝に対する選別機の影響や漁労作業の省力化を考慮すると、網目の選択性を用いた漁獲コントロールの検討も重要と考えられる。今後、地元などと連携をとりながら、検討すること」との指示が出されました。これを受け、当初の調査課題の中にはなかった網目選択性試験を、急きょ実施することになりました。その実施状況を紹介します。

  広尾漁協などと相談し、つぶかご漁期(十勝海域:11月~翌年4月)の早い時期に海上での漁獲試験を終了できるような調査計画を作り、それに沿って漁獲試験をしてくれる用船を探すこと、数種類の目合の試験かごを調達することから始めました。船については地元のツブ部会長が持ち船を何とか都合してくれることになりましたが、かごについては漁業者の使っていない目合のかごが必要なため難儀しました。広尾漁協が他の試験で使用するために作成するかご枠等を一時的に使わしてもらうことになったものの、必要とする目合の網地の確保に手間取ったり、網地をかごに張ってくれる人を探す等の種々の問題があり、かごが完成したのは12月末になってしまいました。

  ようやく、準備ができ、早速漁獲試験を行おうとしましたが、今度は「1~2月は水温が低くツブの動きが悪いため余り入らず良いデータは得られないのではないか」との用船の船頭さんのアドバイスがあり、海水温がぬるむ3月まで待つこととなりました。しかし、3月になってみると、今度は仕事の調整が就かないし、都合の良い日は時化が続くで、漁具設置もままならず、年度内実施は無理かなと半分あきらめかけた3月28日にようやく設置、年度最終日の3月31日に奇跡的に漁具を揚げることができました。多くの人達の協力と神のご加護を得て、年度内実施、すべり込みセーフとなった次第です。

  多くの人(特に広尾漁協の関係者)の協力を得て何とか実施した漁獲試験ですが、結構面白そうな結果がでています。図1、図2に各目合かご別の漁獲物殻長組成を示しました。ツブかご漁業の場合、網目選択性にはツブの殻幅とかごの網目が関係してくると思われますが、ここでは、通常測っている殻長を使いました(図3参照)。なお、図示しませんが、ツブの殻長と殻幅との間には直線の比例関係があるようです。また、今回新たに作成した4種類の目合かごは側網、底網とも同一目合ですが、当業船仕様かごは側網8節、底網6節と2種類の網目が使われています。

  漁獲試験では、各目合かごを15個づつ、計75個のかごを連結して使用しました。総漁獲個体数は合計で1,145個体で、各目合かご別では、9節かご:378個体、8節かご:291個体、7節かご:144個体、6節かご:107個体と目合が大きくなるに従い漁獲個体数は減少しており、また当業船仕様かごでは225個体でした。各目合かごで漁獲された個体の殻長モードも、目合が大きくなるに従い、9節かご:67.5ミリメートル、8節かご:72.5ミリメートル、7節かご:72.5ミリメートル、6節かご:80.0ミリメートルと大きくなっており、また当業船仕様かごでは67.5ミリメートルでした。

  現在、当業船の多くは、かご側網8節、底網6節の二つの目合からなっているかごを使用しており、漁獲物を船上でスリットのあるドラム型選別機を使って、概ね殻長80ミリメートル以上の出荷サイズのものと、殻長80ミリメートル以下のより小さくて保護のため海中還元するサイズを選別しています。ここで、問題となるのは、出荷サイズ以下のものが、漁獲の際に異なった水温帯を通過し、一度船上に揚げられ空気にさらされること、選別機による物理的衝撃による一部の個体は貝殻の破損がおきることにより生き残りの低下が懸念されることです。貝殻破損については、飼育試験の結果では貝殻修復能力はかなり強いと思われますが、修復に至るまでの生理的ストレスなどがその後の成長・成熟に悪影響を与えるかもしれません。できるなら、小型個体は漁獲せずに、海底にそっとしておいた方が良いのではないでしょうか。

  今回の漁獲試験結果をみると当業船仕様かご漁獲物のおおよそ5分4の個体が選別機からふるい落とされ海中還元されることになります。一方、出荷サイズである殻長80ミリメートル以上の漁獲個体数を各目合いかご別に比較してみると、多少ばらつきはあるものの、今回の試験で使用したかご目合い範囲では、目合が大きくなっても漁獲個体数が減少するような傾向はみられませんでした。このことから、広尾海域では当業船かごを6節かごにすることにより、出荷サイズである殻長80ミリメートル以上の漁獲個体数を減らさずに、保護の必要な小型個体の入かごを大幅に減すことができる可能性があります。これにより資源に対して良い結果をもたらすばかりでなく、選別作業、選別設備費の軽減をも図れるかもしれません。

  道東海域では、各海域で成熟にいたる殻長や漁獲制限殻長が若干異なるようであり、今回の調査結果などを更に詳しく解析し、他海域にも汎用的に使える選択性曲線を作成することを検討しています。

(釧路水産試験場 資源管理部)
(十勝地区水産技術普及指導所)
    • 図1
    • 図2
    • 図3