水産研究本部

試験研究は今 No.424「技術資料No.2「網走湖産ワカサギの生態と資源」-20年にわたる試験研究の成果を紹介」(2000年5月25日)

技術資料No.2「網走湖産ワカサギの生態と資源」-20年にわたる試験研究の成果を紹介

ワカサギ
網走湖というと、冬、湖面の氷に穴をあけ、そこから糸を垂れるワカサギ釣りを思い浮かべる方も多いはず。網走では流氷と並んで網走湖のワカサギ釣りが冬のレジャー・スポットでもあります。
  産業としても網走湖のワカサギは重要で、大正時代には組織的にワカサギ漁業が行われ、佃煮加工も始められました。そして漁業が盛んになった当初から漁業者の手によって人工孵化事業や資源管理が取り組まれ、今日に至るも網走湖は全国有数のワカサギ生産地となっています。

  今から約20年前の1981(昭和56)年に、北海道立網走水産試験場は、地元の西網走漁業協同組合から依頼を受け、網走湖産ワカサギの試験研究を開始しました。当時、ワカサギは漁獲量変動が大きく、いかに高位安定した漁獲量が維持できるかが課題となっていました。以来、網走水産試験場は西網走漁協をはじめ網走市役所などとも共同で、おもにワカサギの資源変動の仕組みについて調査研究を続けてきました。

   その間、得られた知見については逐次、研究報告や事業報告として取りまとめ、発表してきたところです。そして、このたび、これまでの資料すべてを整理し、解析した結果を平易に解説した技術資料No.2「網走湖産ワカサギの生態と資源」を発刊しました。本誌は北海道立水産試験場研究報告第56号に掲載した論文(鳥澤,1999)を再構成したもので、この20年間の調査でワカサギについて、なにが分かったのかが、分かり易く書かれています。

本誌の構成はつぎのとおりです。

第1章
  網走湖におけるワカサギ漁業の概要
第2章
  産卵生態
第3章
  初期生活期
第4章
  当歳魚の降海はなぜ、どのように行われるのか
第5章
  海からの遡上行動
第6章
  ワカサギ漁業による漁獲物解析
第7章
  網走湖産ワカサギの資源変動の仕組み

  ワカサギはもともと、淡水域で産卵し、ふ化して海に下った後、また産卵のため淡水域に遡上する魚ですが、網走湖のワカサギのなかには、海に下らず、一生を淡水域で過ごす湖中残留群もあり、それら様々なタイプの生活史全体の概要が明らかにされました。そして、湖内のワカサギの数がある一定量を超えると、湖からあふれ出るかのごとく、オホーツク海に下る数がそれだけ多くなることが分かりました。

  課題であった資源変動の仕組みについては、資源量増加→親魚小型化(あるいは産卵量増加)→初期生残低下→資源量減少→親魚大型化(あるいは産卵量減少)→初期生残上昇→資源量増加、というサイクルを繰り返し、平衡状態が保たれていると考えられました。すなわち、資源の変動はでたらめではなく、小刻みな周期性を持って推移しており、現状では毎年250トン程度の漁獲量を取り出すことができる安定した状態にあると見積もられました。

  将来とも安定した生産を維持するためには、再生産のための産卵数を確保する漁獲にとどめることと、網走湖およびその周辺の環境を守ることが非常に重要であると考えられます。ワカサギの資源量が大きく変動しながらも、長期的には平衡状態を維持できているのは、網走湖特有の汽水環境が微妙なバランスで保たれているからです。
  この20年間、真摯に事業に取り組む漁業者、生態解明に情熱を傾ける研究者、それを支えるスタッフ、多くの人たちがワカサギ調査に主体的にかかわり、地道なモニタリングの継続を可能にしてきました。地味で長期的な調査の結果、初めて確認なり、発見されるものがあります。そのことを示すことができたのも本誌の一面です。

(網走水産試験場 資源管理部)