水産研究本部

試験研究は今 No.429「エゾバフンウニ口器中間骨に見られる輪紋について」(2000年7月24日)

エゾバフンウニ口器中間骨に見られる輪紋について

  ウニ類の資源状況を知るためには年齢査定が欠かせません。現在は、殻板の一種である生殖板に形成される輪紋が年輪であることが明らかにされており、年齢解析に利用されています。しかし、生殖板を観察するにはウニを購入するための費用が掛かることと熟練が必要とされます。そのため、大規模な漁獲物調査の実施に障害となってきました。このことから、調査経費、作業の軽減が図れる方法はないかと考えられてきましたが、これまではそのような方法が見つかりませんでした。

  ところで近年、エゾバフンウニの稚ウニ放流時の標識として、ALC(アリザリン コンプレクソン)染色が有効であることが確かめられてきており、2~3年後でも口器中間骨に残っていることが知られています。このことから中間骨は稚ウニの時期から体内にあることが解りました。この中間骨に輪紋が形成されていて、しかも年輪であることが証明されれば、年齢解析等の有効な手段になると考えられ、輪紋の有無や年輪としての可能性について観察を行いましたので紹介いたします。

  ここで中間骨について説明しておいた方がよいでしょう。あまりなじみが無く目立った存在ではありませんが、中間骨はアリストテレスのランタンと呼ばれる口器の上部にほぼ同じ大きさで5枚あります。顎骨(がっこつ)上の上生骨(じょうせいこつ)に密着し、その上を橈骨(とうこつ)が覆っています。中間骨は長方形で短辺がややくぼんでいます。橈骨側(上面)は凹凸が少なく、反対側の上生骨側(下面)は中心部から四隅に稜線が走るなど起伏があります。北水試だより第45号『ALC染色によるエゾバフンウニ人工種苗の判別について』にウニの口器の詳しい図がありましたので、下記に転載させていただきました。
    • 図
    • 写真 エゾバフンウニ中間骨の輪紋

      (左から1998年産、1997年産、1996年産  横白棒:1ミリメートル)

    • ウニの口器
  以下にこれまで実施してきた中間骨の観察方法について述べます。先の尖ったピンセットで口器から橈骨、歯及び付着する筋肉等を取り除いてから、中間骨の摘出を行いました。ALCの場合と同様に、下面について実体顕微鏡で観察を行いました。観察前の処理としては、加熱と無加熱とし、透徹用にキシロール、エチルアルコールおよび淡水を用いました。

  観察結果は次の通りでした。まず、無加熱処理ではエチルアルコール、キシロール、淡水ではエゾバフンウニの中間骨は透徹されず、落射光、透過光でも輪紋は観察されませんでした。下面を研磨した標本についても同じ方法では輪紋は観察されませんでした。

  ところが、中間骨を家庭用オーブンにより250度で20~40分加熱の上、キシロールで透徹して観察したところ、輪紋が認められました。アルコール、淡水でもやや見づらかったものの観察可能でした。いずれも、落射光のみで観察されました。研磨、未研磨どちらでも観察できました。以上の結果から、エゾバフンウニの中間骨は、加熱してキシロールなどで透徹するだけで、実体顕微鏡の落射光で輪紋が観察できることが解りました。

  次にこの輪紋が年輪として数えることができるかを明らかにする必要があります。そのために、1996年~1998年の秋に泊村栽培漁業センターで人工的に種苗生産され、翌年の6月以降、中央水試で無調温砂濾過海水の掛け流しで飼育されてきたエゾバフンウニの中間骨について、本年5~6月に調べました。各年齢群で20個体の観察を行ったところ、写真に示した様に、1998年産には1輪、1997年産には2輪、1996年産には3輪の輪紋が全ての個体で観察されました。最終輪紋から縁辺までの間隔は短くはないことから、輪紋形成からある程度の時間が経過していることが伺えました。なお、1998年産のウニの殻径は12.6~31.8ミリメートル、1997年産は37.5~44.3ミリメートル、1996年産は35.3~55.7ミリメートルでした。

  さらに、各個体の5枚の中間骨の長辺を計測して平均値を求め、殻径との関係を求めたところ、次の回帰式が得られました。中間骨長辺の長さと殻径とは直線的な相関関係が認められました。
  • Y=-6.320+10.405X (r=0.9749)
  • Y:殻径ミリメートル、X:中間骨長辺ミリメートル、r:相関係数
  以上の結果から、これらの輪紋は、夏以降に年1本が形成され、年輪であると推察されました。さらに、中間骨長辺の長さからそのウニの生きていたときの殻径が推測できることを示しています。今回の観察が一般的真実であれば、
  1. ウニむき身処理後の廃棄物である口器の中間骨で漁獲物の年齢が分かる、
  2. 殻径も分かる、
  3. 生殖板と違い、砥石で表面を適度に研磨する必要が無い、
  4. 同じ様なものが5枚有るので観察時の処理に失敗が許される、
ということで、ウニの年齢査定の費用、労力の軽減に役立つことになります。

  現在は、輪紋形成時期を特定するためにこれら3年級群についての定期的な観察を行うとともに、第1輪紋の大きさから放流時の殻径つまり成長が促進された人工ウニか、そうでない天然ウニかの判別ができるか、天然のエゾバフンウニやキタムラサキウニでも同じことがいえるかを検証する研究を継続しています。

  この報告をお読みになって興味を持たれた方は、中央水産試験場 資源増殖部 田嶋健一郎までご連絡下さい。

(中央水産試験場資源増殖部 田嶋健一郎)