水産研究本部

試験研究は今 No.438「ホタテガイ産卵誘発試験から」(2000年12月11日)

ホタテガイ産卵誘発試験から

  近年噴火湾で頻発しているホタテガイ採苗不良のため、函館水産試験場を中心として、ホタテガイ採苗安定化対策事業が本年度から行われています。当センターでは、函館水試が行った「養殖現場での産卵促進手法の検討」にあわせて、産卵促進を行うのに最適な時期を明らかにすることを目的として、鹿部産養殖2年貝(カゴ飼育)と南茅部産天然貝(3年貝)を用いて、3月から6月まで計8回にわたる(天然貝は5/15、5/24の2回)産卵誘発(産卵や精子の放出を促す)試験を行いました。産卵誘発は、25~30個体の親貝を個別に15あるいは20リットルスチロール水槽へ収容し、飼育水温から4~5℃加温した紫外線照射海水をかけ流して行いました。この試験によって、「産卵できる状態になったのは何時からなのか? 生まれた卵は良い卵なのか? ちゃんとD型幼生になるのか?」などについてわかった点がいくつかでてきました。今回は、それらの点についてお話しします。

  ホタテガイの産卵では、春先の水温の上昇が重要な要因の一つになります。今年度の水温は、図1に示したように近年になく順調に上昇し、3月下旬に2.9度、4月上旬に3.7度、4月中旬に4.9度、5月中旬に5.9度、5月下旬に7.3度となりました。ホタテガイの生殖巣指数も3月から4月上旬にかけて、25まで上昇した後に、4月下旬に一時低下し、5月上旬にほぼ25まで回復しました。回復した生殖巣指数は5月中旬から徐々に低下して、6月にはいると15を下回る値となりました。生殖巣指数の推移に赤い矢印で示したのが鹿部産貝の誘発日で、青の矢印で示したのが南茅部産天然貝の誘発日です。
    • 図1
  図2に誘発応答率(以下、応答率)と得られた卵の受精率の変化を示しました。応答率は、4月中旬に80パーセントを上回り最も高くなり、5月にはいると20~30パーセントで推移し、6月上旬で10パーセント以下の応答率となりました。このことは、応答率では4月中旬から5月下旬までが産卵可能な期間であったことを示しています。しかし、受精率では、最も誘発応答率の高かった4月中旬までは50パーセント台であり、応答率の低下した4月下旬から5月にかけて80パーセントを上回る値となりました。最も高い受精率は4月下旬の98パーセントでした。図2では、受精率の高い時期は必ずしも応答率の高い時期と一致していないことを示しています。
    • 図2
  次の図3には、得られた卵の卵径と正常なD型幼生に移行する割合の変化を示しました。卵径は、誘発に応答し始めた3月下旬で85ミクロン程度でしたが、産卵期が進むにつれて徐々にその大きさが小さくなって、産卵可能時期の終わり近い5月下旬では80ミクロンを下回る結果となりました。図中にあわせて示した天然貝の卵径では75ミクロン付近で大きな変化はありませんでした。正常なD型幼生に移行する割合は、産卵可能時期の初めでは、ほぼ20パーセントでしたが、5月に入ると40パーセントを上回る値となりました。これは図2に示した受精率の傾向とも一致しています。これらのことから、良い卵を得るのに適した時期は、5月上旬から下旬までと考えられます。
    • 図3
  今回誘発を行った養殖貝では、卵径が産卵可能時期の初めに大きく、徐々に小さくなりました。この現象については、来年度以降に明らかにしていかなければならないと考えています。

(栽培漁業総合センター 貝類部 奥村裕弥)