水産研究本部

試験研究は今 No.659「網走湖のヤマトシジミ資源(2009年の資源回復傾向)」(2010年03月05日)

はじめに

  網走湖のヤマトシジミ(以下シジミ)は、近年では北海道内のシジミ漁獲量のおよそ8割を占め、北海道の内水面漁業において最も有用な漁業資源です。2003年に過去最大の資源量が推定されましたが、2003〜2006年の冬から早春にかけてシジミ生息場所に貧酸素、高塩分水が下層から上昇したことによりシジミが死亡し、資源量が半減していたことが明らかになりました。ところが、2009年に資源量調査を実施したところ、一転して資源量が増加し資源の回復傾向が見られましたので、紹介いたします。

網走湖とシジミ

図1
 網走湖は、北海道東部の網走川下流の大空町(旧女満別町)から網走市にかけて位置する、汽水湖です(図 1)。湖の大きさは、面積32.3平方キロメートル、周囲長42キロメートルで、最大水深16.1メートル、平均水深6.1メートルであり、主に5メートルより浅い沿岸域にシジミが生息しています。

 湖水は湖を流出後、約7.2キロメートルの網走川を経てオホーツク海へ流下しますが、時期や条件によって上潮時にオホーツク海から海水が遡上して、塩分濃度の高い河川水が湖に達します。
 淡水と塩水は、比重が異なるため混ざり合わず、比重の重い塩水が下層へ移動して停滞するため、比重の軽い淡水は上層へ移動します。網走湖では、上層に塩分濃度1〜2psu の低塩分水層(上層水)が、下層に塩分濃度 20psu程度の高塩分水層(下層水)があり、2層構造を形成しています(図1)。
 下層高塩分水層は、酸素が少ないか無く、硫化水素等の有害物質の濃度も高く、シジミが生存できません。
 湖沿岸のシジミ生息場所は、上層水に当たり、シジミの生存に適した塩分濃度や環境と合致しており、西網走漁業協同組合の適切な管理によって、シジミ資源量は増加傾向にありました。そして、2003年には過去最大の資源量が網走水産試験場により推定されました(図2)。
    • 図2

2003~2006 年の下層高塩分水上昇による影響

  網走湖で最大のシジミ資源量が推定された2003年の冬期に、オホーツク海から海水が網走湖に流入し、かつてなく下層水がシジミ生息場所の水深にまで上昇しました。この現象は、2003〜2006年の冬から早春にかけて起こり、特に 2005年2月には水位標高2メートルにまで下層水が上昇しました。そして、この期間に、水深4〜5メートル付近のシジミは、長期間にわたって貧酸素、高塩分下層水に曝されたため多くが死亡しました(試験研究は今565号参照)。このため、資源量は、激減していき、2007年に道東内水面室が行った調査では、2003年の半数程まで減少していました(図2)。

  その後、2006年1月から冬期間に限り河川管理者の国土交通省網走開発建設部により下流からの塩水遡上を抑制する実験施設が湖下流の網走川に設置されて、下流から湖への塩水遡上が抑制されました。さらに2006年10月には、網走地方で発達した低気圧が通過し、それにともなう増水(魚と水44号参照)により、下層水が流出したため、湖沿岸のシジミ生息場所が再び上層の低塩分水に戻りました。

2008~2009年の動向

  2008年6月に網走湖シジミの分布状況について、水深1〜5メートルまで1メートル毎に調べたところ、水深4〜5メートルに2006年生まれと推測されるシジミ稚貝が多数観察されました(図3)。すなわち、下層水上昇によりシジミが死亡して資源が減少した水深4〜5メートルにおいて、その後新たに生まれたシジミが定着していたことが確認されました。下層水が下降して環境が好転したことにより、水深4〜5メートルの環境がシジミに適した環境に回復しつつあると考えられます。
    • 図3
  2009年6月に網走湖において、西網走漁業協同組合、網走市役所、及び網走支庁の協力のもとシジミ資源量調査を実施しました。2009年は、2007年調査時の資源量と比べて多く、2005年と同程度まで増加していました(図2)。これは、産卵規模の大きかった2004年生まれのシジミが寄与しており、2003〜2006年の下層水上昇の影響が小さかった水深 3メートル以浅において、2004年生まれのシジミが資源として加入したため全体の資源量が増加したものと考えられました。今後、この2004年生まれのシジミの成長に伴い現存量が増加し、資源が回復していくことが予測されます。さらに、2006年以降に生まれたシジミが、環境の回復した水深4〜5メートルに定着しはじめたことが確認されたことから深場での資源増加も見込まれます。

  今後も道東水面室では、網走湖シジミの資源状況の監視を、漁業者の方をはじめ地域の皆さんとさらに継続し、適切な漁獲と資源管理によって網走湖シジミ資源を有効に持続しながら活用していけるよう、試験研究に取り組んで参ります。

(水産孵化場内水面資源部道東内水面室 渡辺智治)

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