水産研究本部

試験研究は今 No.664「「活締め」と「脱血」の効果的方法」(2010年05月07日)

はじめに

  魚が暴れて死ぬと鮮度落ちも早く、不味くなることから、釣り人や漁業者の一部では、釣獲ないし漁獲後に生きている魚の鰓や尾鰭の付け根、延髄を切削して、血を抜く(脱血)方法が行われています。これは活締めと呼ばれ、これまで漁業者間では、手間がかかるため敬遠されてきました。ところが、2009年9月7日の北海道新聞夕刊一面にここ5年間で札幌市中央卸売市場に“活締め魚”を出荷する漁業者数が10倍以上に増加しているという記事が掲載されました。現在、ヒラメ、マツカワなどの高級魚だけでなく、ホッケなどの大衆魚、オオカミウオなどのこれまで生食もしくは食べられないと言われてきた魚も活締めされるようになってきています。この理由として、札幌の料理人が、生産地で講習会を通じて活締め処理することにより品質が向上することを普及し、さらに、消費地市場でも活締め魚を積極的に取り扱ってきたからです。しかし、これまで効果的な活締めや脱血の方法は明らかにされていません。そこで、今回はニジマスを用いて、これらの技術を開発するための試験を行ったので、その結果を紹介します。

活締めについて

  活締めは、釣り人や漁業者の一部では古くから行われており、延髄切断による即殺効果を期待するものです。魚は水揚げされると、暴れ、魚体内のATPが急激に減少し、死後硬直が始まります。活締めには、この死後硬直を遅らせる、つまり、鮮度保持の効果があります。ATPとは、生きている時に、運動や呼吸などの生命維持に不可欠なエネルギー物質です。

効果的な脱血について

  効果的な脱血方法を放血量から検討しました。放血量が多いものほど、効果が高いことを表します。図1に示したように、鰓の切削が効果的です。鰓は一般的に4枚から構成されていますが、切削の枚数は1枚でも4枚と同等、切削道具は包丁、ハサミでも同等の効果が得られました。ただし、魚が死んでからではかなり低くなります。図2,3に鮮度を保持しつつ効果的な脱血処理方法を検討した結果を示しました。片鰓だけの切削は、放血量は多いものの、鮮度指標となるATP量が少なくなり、一方、延髄の切削により即殺したものは、放血量は少ないもののATP量が多くなっています。このことから、効率の良い放血と鮮度保持は、延髄を切削後すぐに鰓を切削することにより、可能となります。なお、魚を空中に露出しておくと、血液が固まるので、放血は必ず海水中で行い、放置時間は5~15分間です。

おわりに

  活締めと脱血処理は、生産地で、生産者が行うことのできる品質向上の手段です。少しでも高品質の魚を消費者に提供し続けるため、水産試験場では客観的なデータ(数値化)をこれからも公表していきますので、生産者、市場関係者、市町村の方々のご協力を今後も宜しくお願いいたします。なお、この試験はさけます・内水面水産試験場道東支場の協力を得て行いました。
    • 図1
      図1 切削方法によるニジマスの放血量の比較

      注:棒グラフ中の縦棒線は、標準偏差を表しています。

    • 図2
      図2 切削方法別の放血量
    • 図3
      図3 切削方法別の残存ATP量
ATP:アデノシン三リン酸の略で、生物が生きているときは消費されても再合成されますが、死んでしまうと減少し、増加することはありません。

(釧路水産試験場 加工利用部 辻 浩司)

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