水産研究本部

試験研究は今 No.666「リアルタイムマナマコ資源評価実証試験を実施します」(2010年06月04日)

はじめに

 近年、マナマコは中国での需要の増大にともない単価が急激に増加しています。このため各地区で資源の持続的利用を目的とした様々な資源管理の取り組みが行われており、「今、前浜にどのくらい資源があって、どのくらい獲ってもよいのか?」ということが最大の関心事となっています。そこで、稚内水産試験場は、公立はこだて未来大学、東京農業大学、北海道大学、中央水産試験場と共同で、総務省戦略的情報通信研究開発推進制度(SCOPE)の支援をうけて「マリンブロードバンドを活用したICT漁業の実現とリアルタイム水産資源評価に関する研究開発」(H21-22)に取り組んできました。そして、本年度の6月15日から8月31日に留萌地区においてリアルタイムマナマコ資源評価の実証試験を実施することとなりましたので、実証試験の概要を紹介します。

漁業情報を活用したマナマコの資源評価方法の概要

 なまこ桁網漁船の漁業情報を用いたマナマコの資源評価方法は、H21年までに基本的な処理手順を確立することができました。これは、漁船を調査船に、操業を資源調査に見立ててデータを収集しています。なまこ桁網漁船に航跡のGPSデータを記録するデータロガーを搭載しました。曳網ごとの漁獲量を把握するために、データロガーを搭載した漁船は、漁期中に曳網時間と漁獲量を紙の操業日誌に記録しました。これらのデータを漁期終了後に回収して、地理情報システム(ArcGIS9.ESRI社製)により処理して、漁期初めの資源分布密度の分布図を作成しました。資源量はこの漁期初めの資源分布密度に漁場面積をかけて試算しました。これにより、どこで曳網して、どこでどのくらい獲り、漁期の初めにはどのくらいの資源があって、どのくらいの割合で漁獲し、どのくらい獲り残したのかがわかります。

リアルタイムマナマコ資源評価実証試験

 前述したマナマコ資源評価方法は、漁期が終わった後にデータを回収するので、当然漁業者が知るのは漁期後です。つまり、計算上では資源量は把握できますが、それは過去の資源量ということになり、今の資源状況を知りたいという漁業者のニーズを満たしていません。そこで、今の資源状況を漁業者へ伝えるために、情報技術を活用してリアルタイムに収集したデータを迅速に処理、配信する技術開発に取り組んできましたが、ようやく現場での実証試験を行える段階まで到達しました(図1)。

 まず、漁船と陸上とをつなぐ通信手段は長距離無線LANを用いました。データロガーに記録された航跡のGPSデータは、長距離無線LANを通じて自動的に陸上のサーバへ送信されます。紙の操業日誌からタッチパネルPC(タフブックCF-H1.Panasonic社製)のデジタル操業日誌となったことで、入力の手間が軽減され、同時に自動的に長距離無線LANを介してサーバへ送信できるようになりました。これらのデータは稚内水産試験場の地理情報システムで処理されます。処理は一つ一つ手作業で行うと時間がかかるので、作業内容ごとにモデルを組んで処理時間の効率化を図りました。この処理は、現在では1時間以内に処理できるようになっています。そして、資源評価結果は、詳細な情報が確認できるwebサイト情報と要約版FAX情報の両方で、毎週漁業者に向けて配信する計画です。

留萌地区なまこ部会にて

 これまでの技術開発の途中経過と、この実証試験の計画を5月28日に留萌地区なまこ部会総会で報告しました。こちらの地区では、昨年マナマコ資源保護のためなまこ桁網漁期を切り上げる決定をした資源管理意識の高い地区です。そのため、今年度この地区で今のマナマコの資源状況を伝えることで、資源管理の意志決定に役立ててもらいたいと説明しました。詳細な漁業情報を用いているため、この資源評価データからは、どこにマナマコがいて、どこを曳網したらよいかも当然わかります。そのため、乱獲を懸念する声もありましたが、この資源の持続的な利用の責任は漁業者の皆様自身にありますと説明しました。この情報により、漁業者の方々は、今まで以上に前浜のマナマコ資源に責任をもって操業することになると思われます。この情報が資源管理に役立つことを祈願するばかりです。
    • 図1
      図1 今年度実施するリアルタイムマナマコ資源評価実証試験の概要

最後に

 今年のリアルタイムマナマコ資源評価は実証試験と位置づけてます。この実証試験を通じて出てきた問題を整理して,さらなる改善を図りたいと考えています。この試験結果については,別の機会にご紹介させて頂ければと考えています。

謝辞

 本試験は、留萌南部地区水産技術普及指導所、稚内地区水産技術普及指導所、新星マリン漁業協同組合、稚内漁業協同組合、猿払村漁業協同組合のご指導、ご協力を得て行ってきました。この場を借りて心よりお礼申し上げます。

(稚内水産試験場 調査研究部 佐野 稔) 

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